「部下の育て方がわからない。何を教えればいいのか、そもそも見当がつかない」。管理職になった途端、プレイヤー時代には求められなかった育成という仕事が突然のしかかり、これまでのやり方が通用しないと感じている方は多いはずです。自分が背中で覚えてきたぶん、言葉にして教える経験を積む機会がないまま役職だけが上がってしまう、という事情もあります。
しかし、数多くの管理職層の育成を手がけてきた立場から言えるのは、育て方がわからないという悩みの多くは、教え方のテクニック不足ではなく、育成に取りかかる順序が抜けていることに原因がある、ということです。何から手を付けるかを決めずに指導へ飛び込むと、努力しても手応えが出ません。
本記事では、育て方がわからなくなる原因の切り分けから、部下の現状把握、目標設定、任せ方、フィードバックの手順まで、育成を実務として担ってきた視点で順を追ってお伝えします。
部下の育て方がわからないのは指導力の問題ではない

育て方がわからないと感じるとき、多くの方は「自分に指導のスキルが足りない」と考えます。ところが実際に管理職の相談を受けていると、指導の技術以前のところでつまずいている例がほとんどです。何を目指して、誰に、どの順番で関わるのかが決まっていないまま、いきなり教える段階に入ろうとしているのです。
育成は、料理でいえば材料と手順を決めてから包丁を握る作業に近いものです。手順を飛ばして目の前の食材に手を出しても、味は決まりません。まず整理すべきは、わからないという感覚がどこから来ているのかという点です。
「わからない」の中身を3つに切り分ける
ひとくちに育て方がわからないといっても、その中身は同じではありません。相談の内容をたどると、大きく3つの層に分かれます。ここを切り分けないまま対策を探すと、自分に必要のない手法ばかり集めてしまいます。
- 01何を目標に育てればよいのかがわからない(方向の欠落)
- 02目の前の部下に何が足りないのかがわからない(現状把握の欠落)
- 03わかってはいるが、どう伝えれば動いてくれるのかがわからない(関わり方の欠落)
方向が欠けている段階の方に、いきなりフィードバックの技術を渡しても機能しません。逆に、目標も現状も見えているのに関わり方だけで悩んでいる方には、傾聴や任せ方の工夫が効きます。自分の「わからない」がどの層なのかを先に見極めることが、遠回りを避ける最短の道です。
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プレイヤーとして優秀だった人ほどつまずく理由
自分で成果を出してきた方ほど、育成で行き詰まりやすい傾向があります。自分が無意識にできてしまうことは、言葉にして人へ渡すのが難しいからです。手が勝手に動く作業を分解して説明するには、自分の思考をいったん外に取り出す必要があります。
だからこそ、優秀だった方が育成でつまずくのは能力の問題ではありません。教えるための言語化という、別の技能を使う場面に切り替わっただけです。ここを勘違いすると、自分は管理職に向いていないと自信を失ってしまいます。
育て方がわからなくなる4つの原因

悩みの層を切り分けたら、次はその背景にある原因を見ていきます。管理職が育成でつまずく理由は、突き詰めると4つに集約されます。自分に当てはまるものがどれかを確かめながら読んでみてください。
育成の時間が確保できていない
もっとも多いのが、時間の問題です。管理職はプレイヤー業務を抱えたまま育成を任されることが多く、目の前の締め切りに追われて部下と向き合う時間が後回しになります。忙しいから育成を疎かにすると、部下が育たず仕事を任せられず、さらに自分が忙しくなるという悪循環に入っていきます。
時間がないという状態は、多くの場合、育成を業務の外側にある追加作業と捉えていることから生まれます。育成を自分の仕事の一部として時間割に組み込まないかぎり、忙しさは永遠に言い訳であり続けます。
部下の現状を把握できていない
部下が今どこでつまずき、何を得意としているのかを把握しないまま指導すると、的外れな助言になります。本人がすでにできることを繰り返し教えれば退屈させ、まだ届かない水準を求めれば萎縮させます。現状が見えていない指導は、暗闇で相手に物を手渡そうとするようなものです。
指示と育成を混同している
やり方を細かく指示することが育成だと思い込んでいるケースも少なくありません。指示は目の前の仕事を片付けるための手段であり、部下が自分で考える余地を奪います。指示ばかりを受けた部下は、次も指示を待つようになり、指示待ちの姿勢が固定されていきます。
裏を返せば、育成とは答えを渡すことではなく、部下が自分で答えにたどり着く過程に付き添うことです。ここを取り違えると、教えるほど部下が受け身になるという逆転が起きます。
価値観の違いを埋めようとしていない
世代や育ってきた環境が違えば、仕事への向き合い方も変わります。自分が当然と考える働き方を、そのまま部下に当てはめようとすると、双方に不満がたまります。違いを正すべき欠点とみなすのか、前提として受け入れて歩み寄るのかで、その後の関係は大きく変わります。
育て方の前に部下の現状を把握する

原因が見えたら、育成の実務に入ります。最初の一歩は、教えることでも目標を立てることでもなく、部下の現状を知ることです。現状という土台がないまま計画を立てても、絵に描いた餅で終わります。
得意と不得意を分けて観察する
部下を「できる・できない」の一枚岩で見ると、指導の解像度が上がりません。同じ人でも、資料作成は速いが人前での説明が苦手、といった凹凸があります。得意なところは任せて自信を持たせ、不得意なところは支援する、という配分ができるようになります。
観察のコツは、結果だけでなく過程を見ることです。成果物が同じでも、時間をかけて丁寧に仕上げたのか、勘で当てたのかでは、次に伸ばすべき点がまったく違います。
対話で本人の認識を引き出す
こちらが観察するだけでは、部下自身がどう感じているかまではわかりません。本人がどこに手応えを感じ、どこに不安を抱えているのかは、対話を通じてしか引き出せません。ここで役立つのが傾聴の姿勢です。
傾聴とは、相手の話をさえぎらず、評価を挟まずに最後まで聴くことを指します。上司がすぐに助言を返すと、部下は本音を話す前に口を閉じてしまいます。まずは聴き役に徹し、本人の言葉で現状を語らせることが、正確な現状把握につながります。
育成の方向を決める目標設定の手順

現状が把握できたら、どこへ向かうのかという目標を定めます。目標がないまま育成を進めると、上司も部下も進捗を測る基準を持てず、成長を実感できません。ここでは目標を立てる順番を整理します。
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- 1.組織として部下に期待する到達点を上司側で言葉にする
- 2.現状との差を確認し、埋めるべき距離を見える形にする
- 3.本人と対話し、期待と本人の希望をすり合わせる
- 4.期限を区切り、達成できたかどうか判断できる基準にする
大切なのは、目標を上司から一方的に押し付けないことです。組織の期待を伝えたうえで、本人の希望や納得を織り込む双方向のすり合わせがあってはじめて、部下は目標を自分のものとして引き受けます。
期待値を先に明確にして共有する
目標設定でつまずく上司の多くは、期待値を頭の中に置いたまま口に出しません。何をどこまでできれば合格なのかを言葉にしないと、部下は暗黙の基準を探り続けることになります。到達点を先に共有すれば、部下は迷わず力を注げます。
成長に見合った少し高い水準を設定する
目標は、今の実力で楽に届く水準では成長につながりません。かといって手の届かない高さでは、はじめから諦めてしまいます。少し背伸びすれば届く水準に置くことで、達成した経験が次への自信になります。この見極めこそ、現状把握を先に済ませておく理由です。
部下を育てる関わり方の具体策

目標が定まったら、日々の関わり方に落とし込みます。ここが多くの方の悩みの中心にある部分です。関わり方は、任せる、フィードバックする、対話の場を持つ、という3つの柱で考えると整理しやすくなります。
仕事を任せて経験の機会をつくる
部下が育つ最大の機会は、実際に仕事を任される場面にあります。ただし、丸投げと権限委譲は違います。任せる際は、その仕事が何のためにあり、どんな影響を及ぼすのかという背景を丁寧に伝えることが欠かせません。目的がわかってはじめて、部下は自分で判断する余地を持てます。
任せたあとに口を出しすぎると、部下は自分の判断に自信を持てなくなります。任せると決めたら、失敗も含めて経験させる覚悟を持つことが、自走できる部下を育てる分かれ目になります。もちろん、放任して見ないふりをするのとは違います。要所で状況を確認し、必要なときに手を差し伸べる距離感が求められます。
怒るのではなく叱る
部下がミスをしたとき、感情をぶつける「怒る」と、成長を促す「叱る」は分けて考える必要があります。怒るは自分の感情を発散する行為で、部下には恐怖しか残りません。叱るは相手の行動を良くするための指摘であり、次の3点を押さえると建設的になります。
叱るときに押さえる3点
人格ではなく取った行動に対して指摘する。どんな状況で起きたのかを事実とセットで語る。その行動が周囲へどんな影響を与えたのかを問いかけ、本人に考えさせる。
人格を否定する言葉は、部下の自己評価を下げるだけで行動を変えません。行動に焦点を当てれば、部下は責められたと感じずに改善点を受け取れます。
1on1で継続的に向き合う
関わりを単発で終わらせず、定期的な場として持つのが1on1です。1on1は、上司が話す場ではなく部下が話す場だと捉えてください。業務の進捗確認だけでなく、部下が今考えていることや悩みを引き出す時間として使うと、現状把握が更新され続けます。
頻度は月に1回でも構いませんが、続けることに意味があります。一度きりの面談では本音は出ません。回を重ねるうちに、部下は少しずつ内側を見せるようになります。
タイプの違う部下への接し方を変える

同じ育て方が、すべての部下に効くわけではありません。褒めて伸びる人もいれば、任せて伸びる人もいます。ここでは代表的なタイプごとに、接し方の勘所を整理します。目の前の部下がどれに近いかを考えながら読んでみてください。
指示待ちタイプには考える余地を残す
指示を待ってから動くタイプには、答えを与えるほど受け身が強まります。あえて全部を教えず、どう思うかを先に問いかけることで、考える習慣を少しずつ育てます。最初は時間がかかっても、自分で考えた経験が積み重なると変わっていきます。
ミスを恐れる慎重タイプには小さな成功を積ませる
失敗を過度に恐れるタイプには、いきなり大きな挑戦を求めると動けなくなります。確実に達成できる小さな仕事から任せ、できた事実を認めることで、少しずつ自信をつけさせます。積み上がった成功体験が、挑戦への足場になります。
自主性の高いタイプには任せて見守る
自分で進めたいタイプに細かく口を出すと、意欲を削いでしまいます。方向性だけを共有し、進め方は本人に委ねるほうが力を発揮します。放任するのではなく、求められたときにすぐ応えられる態勢を保つのが、このタイプへの関わり方です。
部下を自分で考えさせる問いかけの技術

ここまでの手順を押さえても、最後に多くの上司が突き当たるのが、部下に自分で考えさせる難しさです。これは上位の解説記事でも深く触れられることが少ない、育成の核心にあたる部分です。数多くの管理職の育成に立ち会ってきた立場から、実務で効いた考え方をお伝えします。
上司が選択肢を持っていると理解させる
自分で考えられない部下は、答えが一つしかないと思い込んでいることが多いものです。まず、上司の中には複数の選択肢があり、その中から選んで判断しているという事実を見せます。答えは一つではなく、選ぶものだと知ることが、考える出発点になります。
考える切り口と手順を先に渡す
考えろと言うだけでは、部下は何をどう考えればよいのかわかりません。真っ白な紙を前に立ち尽くすのと同じです。どの順番で、どの観点から検討すればよいのかという切り口を先に共有すると、部下は思考の足がかりを得られます。自分の経験から得た判断の型を、言葉にして渡すのです。
全部ではなく部分的に考えさせる
いきなり全体を任せると、経験の浅い部下は思考の負荷に押しつぶされます。まずは判断の一部分だけを本人に委ね、残りは上司が受け持つところから始めます。考える範囲を少しずつ広げていくことで、無理なく思考の体力がついていきます。
ここで見落とされがちなのが、気持ちまで丸投げしてはいけないという点です。考えさせるからといって、うまくいかないときの責任まで部下一人に背負わせると、挑戦そのものを避けるようになります。考える作業は任せても、結果を一緒に引き受ける姿勢だけは手放さないことが、部下が安心して考えられる土台になります。
やってはいけない育成の失敗例

良い関わり方を知ると同時に、避けるべき関わり方も押さえておくと、遠回りを減らせます。育成でよく見かける失敗を挙げます。
- ✓簡単な仕事しか任せず、成長の機会を奪っている
- ✓細かく指示を出しすぎて、考える余地を残していない
- ✓感情的に怒ってしまい、部下が萎縮している
- ✓育成に計画がなく、行き当たりばったりになっている
これらに共通するのは、部下の立場ではなく上司の都合が起点になっている点です。簡単な仕事しか任せないのは失敗させたくないから、細かく指示するのは早く終わらせたいから、という上司側の事情が透けて見えます。育成の視点が抜けると、良かれと思った行動が成長の妨げになります。
プロセスを見ずに結果だけで評価する
結果だけを見て評価すると、うまくいかなかった過程での努力や工夫が見えなくなります。同じ失敗でも、何も考えずに起きたミスと、挑戦した結果のミスでは、次に伝えるべきことがまるで違います。過程を見て評価することが、部下の挑戦を後押しします。
部下の育て方に関するよくある質問

育成を進めるなかで管理職からよく寄せられる疑問に答えます。
育成の時間がまったく取れないときはどうすればよいですか
取れないのが前提です。空いた時間にやろうとするから取れません。週に一度、短くても部下と向き合う時間をあらかじめ予定に入れてしまうことをおすすめします。まとまった時間ではなく、15分の対話を続けるほうが効果は積み上がります。
何度言っても部下が変わらないときはどうすればよいですか
伝え方が指示になっていないかを見直してください。同じことを繰り返し指示しても、部下は指示を待つ姿勢を強めるだけです。なぜそうするのかという背景を本人に考えさせ、自分の言葉で答えを出す機会に切り替えると、行動が変わりはじめます。
褒めるべきか叱るべきか迷います
どちらか一方に決める必要はありません。過程での工夫は具体的に認め、改善すべき行動は行動に絞って指摘する、という使い分けが基本です。人格ではなく行動を対象にする点だけは、褒めるときも叱るときも共通します。
部下の育て方に迷ったら課題解決力強化道場へ

ここまで、育て方がわからないという悩みを、原因の切り分け、現状把握、目標設定、関わり方の順に解きほぐしてきました。核にあるのは、教え方のテクニックを増やすことではなく、育成に取りかかる順序を整えることです。順序さえ通れば、あとは日々の対話の積み重ねで部下は変わっていきます。
とはいえ、この順序を自分一人で回し続けるのは簡単ではありません。数多くの管理職層の育成に伴走してきた立場から見ても、頭でわかっていることと現場でできることの間には隔たりがあります。その隔たりを埋める場として、課題解決力強化道場をご紹介します。少人数制のハンズオン形式で、外資系コンサルティングファーム出身の現役コンサルタントが、自社の実務課題そのものを題材に指導します。毎回の個別フィードバックと振り返りを通じて、育成する側の課題解決力を実践のなかで鍛えられる超実践型のプログラムです。管理職層の底上げや、自走できる部下を育てる体制づくりに悩んでいるなら、まずは貴社の状況をお聞かせください。
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