受け身型組織を変える-陥りがちな罠に学ぶ、社員が自ら動き出す“経営の仕組み”のつくり方-
はじめに——「うちの社員は、なぜ指示待ちなのか」
会社を経営していたり、組織をマネジメントしていると、ある時期からこんな感覚を抱く瞬間が訪れます。事業は伸びている、人も増えた、にもかかわらず、なぜか自分の手が離せない、という感覚です。
現場に降りていけば、課題はいくつも見つかります。けれど、誰かが自発的にそれを拾い、解決策まで持っていくということが、なかなか起きない。気づけばあらゆる意思決定が自分のところに集まってくる。会議で「どう思う?」と問いかけても、返ってくるのは沈黙か、当たり障りのない同意ばかり。指示したことは着実にやってくれるが、指示していないことや、想定にない取り組みには、驚くほど動かない。
数多くの中小・中堅企業やベンチャーの現場に入ってきた中で、繰り返し出会ってきたのが、まさにこの「受け身型組織」という状態です。会社の規模や業種を問わず、そして経営者かマネジメント層かを問わず、組織を率いる多くの人が、どこかのタイミングでこの壁にぶつかるのではと思います。とりわけ、短期間で急成長した会社ほど、その傾向は強く出ます。人数が10人、30人、50人と増えるにつれ、創業初期の「言わなくても伝わる」空気は薄まっていく。一方で、会社の仕組みや制度は、成長のスピードに追いついていない。結果として、責任感の強いリーダーほど「自分が全部見なければ」と抱え込み、周囲はますますその指示を待つようになっていきます。これは、会社全体を預かる経営者だけの話ではありません。事業部や部門、チームを率いる立場の方であれば、規模こそ違えど、同じ構造に覚えがあるのではないでしょうか。
この記事では、この受け身型組織がなぜ生まれるのか、その構造をひもときながら、そこから脱却するための「経営の仕組み化」という考え方を、できる限り具体的にお伝えできればと思います。精神論でも根性論でもありません。「社員のやる気が足りない」という話でもありません。むしろ逆で、個々人の意欲や能力”だけ”に頼るのをやめ、組織として動き続けられる仕組みをどう設計するか、という、経営とマネジメントに共通する話です。会社全体を預かる経営者の方はもちろん、事業部やチームを率いるマネジメント層の方にとっても、ここでお伝えする考え方はそのまま応用していただけるのではと思います。
読み終える頃に「うちの会社や組織に足りなかったのは、これだったのか」という手触りを持ち帰っていただければ幸いです。少し長くなりますが、お付き合いください。
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1.「受け身型組織」とは何か
定義——指示を待ち、課題が放置される組織
まず、この記事で言う受け身型組織を定義しておきます。
ポイントは、「生まれない」だけでなく「実現されづらい」という部分にあります。実は、受け身型組織の社員が、まったく何も考えていないわけではありません。現場には「これ、おかしいよな」「もっとこうすればいいのに」という気づきが、確かに存在しています。ところが、その気づきが行動に変換されない。声を上げても実現しないから、次第に声を上げること自体をやめてしまう。この、気づきと行動のあいだにある断絶こそが、受け身型組織の本質です。
会社で起きているサイン
抽象的な定義だけではピンとこないかもしれません。私が現場でよく目にする、受け身型組織の“あるある”を挙げてみます。1つでも心当たりがあれば、注意が必要です。
1つ目は、解決すべき課題があっても、解決策の立案・実行まで至らず、結局は後回しにされ、放置されることです。「誰かがやるだろう」という空気のなかで、重要だが緊急でない課題が、いつまでも積み残されていきます。
2つ目は、指示された内容をこなすことで完結してしまい、そこにプラスアルファの動きが生まれないことです。頼んだ仕事はやってくれる。けれど、その先にある本来の目的に照らして「ならばこうしたほうがいい」という提案や工夫が出てこない。仕事が“作業”として処理されている状態です。
3つ目は、「なぜこの仕事を行う必要があるのか」、その理由や背景を、担当者自身が他人に説明できないことです。手を動かしてはいるが、目的を理解していない。だから応用が効かず、状況が変わった瞬間に止まってしまいます。
4つ目は、定常業務以外の仕事を依頼すると、反発の声が上がることです。「それは私の仕事ではない」「聞いていない」という反応が、組織のあちこちで起きる。変化そのものに対する抵抗感が、いつのまにか組織の体質になってしまっているのです。
これらに共通しているのは、「誰かがやってくれるだろう」と、責任やリスクを取ることに全員が尻込みしてしまう風土です。一人ひとりは決して怠けているわけではありません。むしろ真面目に働いている。にもかかわらず、責任とリスクを引き受ける主体が組織のなかに存在しないために、全体の動きが鈍化していく。これが受け身型組織の正体です。

なぜ、これが「経営の問題」なのか
ここで強調しておきたいのは、受け身型組織は社員の資質の問題ではなく、経営の設計の問題だ、ということです。
組織を率いる多くの人は、この状態に直面したとき、まず「人」を疑います。うちの社員は主体性がない、もっと当事者意識を持ってほしい、と。採用基準を厳しくしたり、研修で意識を変えようとしたり、時には人を入れ替えたりもします。
しかし、私の経験上、それだけでは根本的には解決しません。なぜなら、同じ人でも、置かれる仕組みが変われば、動き方は劇的に変わるからです。主体性は、生まれつきの性格である以上に、環境によって引き出されたり、封じ込められたりするものです。受け身型組織とは、社員の主体性を封じ込める仕組みが、意図せず出来上がってしまっている状態にほかなりません。
だからこそ、変えるべきは「人」だけでなく、「仕組み」そのものなのです。では、その封じ込める仕組みは、なぜ、どのように出来上がってしまうのか。次の章で、その罠の正体を見ていきましょう。
2. なぜ「受け身型組織」は生まれるのか——陥りがちな3つの罠
受け身型組織は、ある日突然できあがるものではありません。多くの場合、過去には合理的だった選択が、時代や会社のフェーズが変わったあとも温存され、いつのまにか組織の足枷になっている、という構造をしています。厄介なのは、その多くが「過去の成功」から生まれているという点です。ここでは、私が現場で繰り返し見てきた3つの罠を紹介します。それぞれ、陥りやすい会社のタイプにも触れていきます。
罠①:既存ビジネスモデルの成功体験——「過去の成果は、これからも続く」という錯覚
1つ目の罠は、長い歴史のなかで、既存のビジネスモデルによって利益を上げ続けてきた、という成功体験です。よく見られるのは、創業からの歴史が長い、いわゆる老舗企業です。たとえば、代替わりを重ねた3代目が率いる中堅メーカーのような企業を思い浮かべていただくと、イメージしやすいかもしれません。
一見、これは強みです。時代の変遷のなかでも、変わらぬビジネスモデルで収益を担保し続けてきたというのは、顧客や市場から信頼を得られ続けている何よりもの証拠ですし、企業努力の賜物だと思います。ところが、この成功が長く続くと、組織のなかから「そもそも、このやり方でいいのか」と、事業や戦略の粒度で考え直す感覚が失われていきます。
予算実績の管理や日々の推進に関わる、作業としての分析は、もちろん存在します。数字を追い、報告書をつくる。しかし、それは決められた枠組みのなかでの作業であって、枠組みそのものを問い直す営みではありません。「今年も去年と同じように」という前提が、疑われないまま組織のOSになってしまう。
これが生む錯覚が、「過去の成果は、今後も続く」という思い込みです。市場は変化し、顧客の期待も、競合の動きも、テクノロジーも変わり続けているのに、自社のやり方だけは変えなくていいと、無意識に信じてしまう。変化の必要性を感じないのだから、当然、変化に向けた自発的な行動も生まれません。受け身型組織の土壌が、ここで静かに形成されていきます。長く続いた成功ほど、それを疑うことが難しくなる。これは、歴史のある会社が構造的に抱えやすい弱点です。
罠②:マニュアル遵守の目的化——「手段の実行」が「目的」にすり替わる
2つ目の罠は、社員に対して、マニュアル通りの動きを求めてきたことに起因します。この罠は、B2Cで店舗型のビジネスに、とりわけ多く見られます。多店舗展開のなかで一定のオペレーション品質を保つことが事業の生命線になる業態では、マニュアルが極めて重要な役割を果たすからです。
組織を効率的に回すうえで、手順書やマニュアルは欠かせません。属人性を排し、一定の品質を担保するための、有効な仕組みです。問題は、その運用が「マニュアル通りに動けること」をゴールにしてしまったときに起こります。
マニュアル通りに手を動かすことはできる。しかし、いざその手順を見直す、改善するとなると、時間もかかるし、うまくいかないリスクもある。人はリスクを取ることに尻込みし、結果として現状維持に着地します。「今のやり方で問題が起きていないなら、変えないほうが安全だ」という判断が、個々人のレベルで積み重なっていく。
こうして起きるのが、手段であるマニュアルの実行が、いつのまにか目的にすり替わるという現象です。本来、マニュアルは良い成果を生むための手段だったはずが、マニュアル通りにやること自体が評価され、目的化してしまう。目的を見失った作業は、状況が変わっても更新されません。マニュアルにない事態が起きたとき、組織は思考停止し、指示を待つしかなくなるのです。店舗型の現場で「本部の指示がないと動けない」という声が上がるとしたら、それはこの罠のサインかもしれません。
罠③:カリスマ経営者への裁量集中——「社長」が組織唯一の物差しになる
3つ目の罠は、最も多くの経営者やトップマネジメントに当てはまり、そして最も自覚しづらいものです。それは、高度な知識やカリスマ性を持つ経営者ひとりに、裁量が集中してきた、という構造です。
そして、この罠がとりわけ多いのが、急成長したベンチャーです。特に、短期間で一気に伸びたベンチャーは、社長と一部の幹部の圧倒的なパワーで事業を押し上げてきたケースが少なくありません。創業者個人のスキル、判断力、人望、そして推進力が卓越しているからこそ、ここまで来られた。外部の取締役や大株主のようなステークホルダーがいない組織であれば、なおさら、あらゆる判断が経営者に集まります。そして、それで実際にうまくいってしまうので、誰も問題だとは思わないのです。
しかし、この構造が続くと、社員の側に「自分が新しい価値を生み出す必要性」を感じる機会そのものがなくなっていきます。どうせ最後は社長が決める。社長に聞けば答えがある。だったら、自分で考えるより、指示された内容を正確に遂行することにフォーカスしたほうが合理的だ、と。社員がそう判断するのは、能力の問題ではなく、環境に対する“最適化”の結果です。
行き着く先は、社長が、組織における唯一の物差しになるという状態です。良し悪しの判断基準が、社長の頭のなかにしか存在しない。だから社員は判断できず、判断できないから指示を待つ。指示を待つから社長の負荷が増える。この構造こそ、勢いよく伸びてきたベンチャーが、あるとき成長の踊り場にぶつかる最大の理由だと、私は考えています。会社を大きくした社長と幹部の力そのものが、次のフェーズでは足枷になりうる。ここに、急成長企業ならではの難しさがあります。

データが示す、日本企業の“変わりにくさ”
この変わりにくさは、個社の問題であると同時に、日本企業全体に共通する傾向でもあります。
PwCの「グローバル組織文化調査2021」によると、組織変革に必要とされる要素の充足度について、日本企業とグローバル企業のあいだには、各項目で約20ポイントもの差が開いています。
たとえば「経営陣から変革の基調を打ち出している」と回答した割合は、グローバル企業が64%だったのに対し、日本企業は38%と、およそ半分にとどまりました。「従業員同士のネットワークによって、変革に際して非公式にお互いをサポートしている」ではグローバル62%に対し日本23%、「変革をサポートするために、組織がコミュニケーションやエンゲージメント活動を提供している」ではグローバル61%に対し日本32%、「経営陣から明確な支援やサポートがある」ではグローバル60%に対し日本33%という結果です。

「日本企業」という主語が大きいので、勿論すべての企業に当てはまるわけではないと思いますが、この数字が示唆するのは、日本企業は構造的に変化を起こしづらい傾向にある、ということだと思います。パンデミックや天災、市場の急変など、時流に応じて大きな転換を迅速に求められる局面で、変化に強いグローバル企業に後れを取ってしまうリスクを、私たちは構造的に抱えているのです。裏を返せば、この変わりにくさを自社の仕組みとして乗り越えられた企業は、それ自体が競争優位になる、ということでもあります。では、どうすれば乗り越えられるのか。ここからが本題です。
3. 解決の鍵は「経営・マネジメントの仕組み化」
「仕組」とは何か
受け身型組織を脱却するために、私たちが最も重視しているのが、仕組み化です。
まず、この記事で言う「仕組」を定義しておきます。
なぜ仕組みが必要なのか。それは、人によって手法や手順、解釈が異なると、そこにムダが生まれるからです。
同じ目的の仕事を、10人の社員が業務をそれぞれ我流でやっている状態を想像してみてください。ある人は効率的なやり方を知っているが、別の人は遠回りしている。ある人の「完了」の基準と、別の人の基準が食い違っている。引き継ぎのたびに解釈のズレが生じ、手戻りが発生する。個々人が頑張っているのに、組織全体としては驚くほど非効率、ということが起こります。これは、多くの成長企業で実際に起きていることです。
仕組みとは、この状態を体系的に整理し、構築することで最適解を定義し、組織全体の生産性を引き上げる営みです。一人ひとりの試行錯誤に任せるのではなく、「このプロセスで進めれば、誰がやっても一定の成果が出る」という型をつくる。それが仕組み化です。

「仕組み化」は管理強化ではない
ここで、よくある誤解を解いておきたいと思います。仕組み化と聞くと、社員をルールで縛り、管理を強化することだと受け取られがちです。しかし、私たちの言う仕組み化は、その正反対です。
仕組み化の目的は、社員を縛ることではなく、社員を自走させることにあります。
判断の基準が曖昧だから、社員は判断できず、指示を待つ。目標と自分の行動のつながりが見えないから、意味を感じられず、動けない。仕組みとは、こうした「動けない理由」を取り除き、社員が自分で判断し、自分で動けるようにするための地図であり、土台です。良い仕組みは、社員から自由を奪うのではなく、むしろ安心して自分で動ける領域を広げます。
前の章で見た3つの罠、すなわち成功体験による思考停止、手段の目的化、社長への裁量集中は、いずれも「判断基準が社長の頭のなかにしかない」ことに根本的な原因があります。仕組み化とは、この属人的な判断基準を、組織の外に取り出し、誰もが使える形にすることだと言い換えてもいいでしょう。
4. 受け身型組織を脱却する「経営の仕組み化」3要素
では、具体的に何を仕組み化すればいいのか。私たちは、受け身型組織を脱却するための経営の仕組み化を、次の3つの要素の掛け算で捉えています。
1つ目が、未来から逆算した「目標&勝ち筋設定」。2つ目が、動きを可視化する「定量的な行動管理」。3つ目が、社員を巻き込む「仕掛け作り」です。
あえて掛け算と表現しているのには理由があります。この3つは、どれか1つでも欠けると、全体が機能しないからです。目標だけあっても、日々の行動に落ちなければ絵に描いた餅になる。行動管理だけを強めれば、社員は「やらされている」と感じて疲弊する。仕掛けだけをつくっても、向かうべき方向がなければ空回りする。3つが揃って初めて、組織は自ら動き出します。
それぞれが担う役割を、ひとことで言えばこうです。1つ目は組織全体の「方向付け」、2つ目は日々の行動の「見える化」、3つ目は参画する「意味付け」。順番に見ていきましょう。

4-1. 未来から逆算した「目標&勝ち筋設定」
心臓としての「目標」を、どう設定しているか
まず問いたいのは、事業と組織の心臓となる目標を、あなたの組織はどのように設定していますか、ということです。
目標は、組織を動かすエンジンです。ところが、この最も重要な目標が、驚くほど曖昧に、あるいは惰性で設定されている会社が少なくありません。
現場で散見される「目標設定のリアル」
私たちが支援に入る前の現場では、こんなケースがよく見られます。
ゴール設定については、月次会計の遅れなどで現状把握が鈍化しており、結果として「昨対からの積み上げ」でしか目標を立てられない、というケースです。去年が100だったから、今年は110、という設定の仕方です。これは、未来を見て決めた目標ではなく、過去の延長線でしかありません。
勝ち筋については、目標を達成するための道筋が社長の頭のなかには確かにあるものの、それが言語化されていないため、すべてが社長頼みになってしまう、というケースです。社長がいなければ、何をどうすればいいのか、誰にもわかりません。
行動目標については、現場の社員が「なぜこの数字を追いかけるのか」を理解できていない、というケースです。数字が上から降ってくるだけで、自分の日々の動きとのつながりが見えないのです。
この状態を、業績は良いが、その要因のほとんどが社長の経験と感覚(冗談半分で”勘ピューター(勘+コンピューター)”と呼称したりします)に依存している組織、と呼んでいます。今は良くても、極めて脆い。社長という一点に、すべてがぶら下がっているからです。

あるべき姿——KGI・KSF・KPIで逆算する
では、あるべき目標設定とは何か。私たちは、未来と現状のギャップからゴール(KGI)を設定し、勝ち筋(KSF)を考え、行動目標(KPI)に落とし込む、という3ステップで整理します。それぞれの指標名はさほど重要ではないので、ここではステップ毎に何をするかを知っていただければと思います。
STEP1は、ゴール(KGI)の設定です。まず、X年後にどうなっていたいか、という中長期のあるべき姿を描きます。そのうえで、現状とのギャップを見て、では今年の年末までに何を実現すべきか、という当年のゴールを定めます。ここで大切なのは、過去からの積み上げではなく、未来からの逆算であること。たとえば「営業利益15%アップ」といったゴールを、明確な意図とともに設定します。この段階で、組織全体の進むべき方向が定義されます。もちろん未来のことなんて誰もわかりません。ただ、「旗を立てること」それ自体が社員への説明のためにも重要です。
STEP2は、目標達成の要因(KSF)の設定です。次に、そのゴールを実現するために、自社ならではの勝ち筋を言語化します。営業利益15%アップというゴールに対して、たとえば「販管費のムダ削減と原価の適正化」「既存顧客の継続契約率の向上」「高単価の新規顧客層の獲得」といった、成否を分ける要因を洗い出します。ここが、社長の頭のなかにあった暗黙知を、組織の共有財産に変える最重要ステップです。勝ち筋が言語化されれば、やるべきことが明確になり、社長以外のメンバーとの壁打ちも可能になります。
STEP3は、行動目標(KPI)の設定です。最後に、その勝ち筋が達成できているかを測るために、各部門・各担当者の行動を数値に落とし込みます。販管費なら年間●●円(昨対比15%削減)、原価なら年間●●円(昨対比5%削減)、営業担当Aは継続率80%、営業担当Bは新規●●円といったように、勝ち筋を実現するための具体的な行動を定義するのです。ここまで落ちて初めて、現場の社員は「自分の日々の動きが、経営にどう直結するのか」を理解できます。
この3ステップを踏むことで、「なぜこの数字を追うのか」という問いに、組織の全員が答えられる状態が生まれます。目標が、社長個人のものから、組織全体のものへと変わる。これが、受け身型組織を脱却する最初の一歩です。

4-2. 動きを可視化する「定量的な行動管理」
目標達成には「行動の数式化」が欠かせない
目標を設定し、行動目標(KPI)に落とし込んだ。しかし、それだけではまだ足りません。目標を本当に達成するために不可欠なのが、行動の数式化です。
行動の数式化とは、年間の目標(ノルマ)を達成するために必要な行動を、具体的な数式に分解し、何を、どれだけやればいいのかを明確にすることです。
具体例——年間ノルマを「月間の行動」に翻訳する
抽象的なので、具体例で説明します。仮に、営業担当Aの年間ノルマ(KPI)を4,000万円に設定したとしましょう。
このとき、社長や幹部陣など勝ちパターンを知っている人の知見をもとに、受注に至るまでの営業行動をプロセス化し、次のような数式に分解します。受注額は、リード数、一次商談率、二次商談率、クロージング率、平均単価の掛け算で決まる、という考え方です。
そこに各プロセスの移行率を当てはめます。仮に、一次商談率10%、二次商談率80%、クロージング率20%、平均単価200万円だとすると、年間4,000万円、すなわち20社の受注を達成するために必要な数字が、逆算で見えてきます。年間で必要なリード数は2,500社、一次商談は250社、二次商談は200社、クロージングは20社です。
これを12か月で割れば、月間の行動量が出ます。月間のリード数はおよそ104社、一次商談はおよそ10社、二次商談はおよそ8社、クロージングはおよそ1.7社です。
ここで起きているのは、組織全体の売上目標が、個人の月次の行動にまで連動する、という変換です。そして重要なのは、月次で管理すべきなのは、もはや「売上」という結果ではなく、この行動量の数字だけになる、という点です。
なぜこれが強力なのか。「今月4,000万円の12分の1を売れ」と言われても、社員は具体的に何をすればいいかわかりません。しかし「今月、リードを104件つくり、一次商談を10件やろう」なら、明日から動けます。目標を、結果の数字から、行動の数字へと翻訳する。これが行動の数式化の核心です。
なお、この考え方は営業部門に限った話ではありません。間接部門(バックオフィス部門)においても、まったく同じように応用できます。たとえば、人事・採用チームであれば年間の採用人数、経理部門であれば年間の販管費(SG&A)の削減額、といったように、部門ごとに追うべき年間目標を置くことができます。大切なのは、会社全体の目標を、各部門のどのような年間目標(KPI)に翻訳するのか、そしてその達成には、どれだけの行動が必要になるのかまでを設計することです。

部門 × 担当 × 行動で管理し、週次で回す
ここで満足してしまうと、いわゆる絵に描いた餅で終わってしまう。行動の数式化ができたら、それを見える形の運用に乗せます。私たちが支援する現場では、部門、担当者、行動の単位でノルマを準備し、毎月の行動計画を各担当者自身が作成、週次の進捗会議で管理・改善していく体制を構築しています。
具体的には、2種類の表を回します。1つは、全体のノルマと進捗を一覧化する「営業進捗管理表」。もう1つは、日次単位で行動を明記する「行動計画表」。この2つを、進捗を更新する、行動を管理・改善する、というサイクルで、週次で回していきます。
このサイクルを回し続けた或る企業は、設定したノルマに対して115%を達成しただけでなく、全員で同じ目標を追いかける一体感が生まれ、チーム力が向上しました。さらに、営業プロセスが数式化・可視化されたことで営業の再現性が担保され、今では若手社員が率先して新入社員のOJTを実施するまでになっています。かつて社長の感覚に依存していた営業が、組織の型として受け継がれるようになったのです。

なぜ「見える化」が受け身を壊すのか
ここで、行動管理が受け身型組織に効く理由を、あらためて整理しておきます。
受け身型組織では、自分の仕事が全体のどこにつながっているのかが見えません。だから、頑張っても実感がなく、サボってもバレない。この見えなさが、当事者意識を奪います。
行動の数式化と週次管理は、この見えなさを解消します。自分の今週の行動が、月次のKPIに、そして組織全体のゴールにどうつながっているかが、数字で見える。進捗が可視化されれば、遅れているときは自分で気づけるし、貢献しているときは実感できる。見える化は、監視のためではなく、社員が自分の仕事の意味を実感し、自分で舵を取れるようにするためにあるのです。
4-3. 社員を巻き込む「仕掛け作り」
仕組みだけでは、人は動かない
ここまで、目標設定と行動管理という仕組みを見てきました。しかし、ここで私が最もお伝えしたい本質的なことがあります。それは、どれだけ精緻な仕組みをつくっても、それだけでは人は動かない、ということです。
人は、正しいから動くのではありません。「やらされている」と感じた瞬間に、心が離れます。どんなに合理的な行動管理表も、当人が自分ごとだと思えなければ、ただの管理ツールに堕してしまう。
だからこそ必要なのが、3つ目の要素、社員を巻き込む仕掛け作りです。社員のニーズを確認し、目標を達成したくなる仕掛けを考え、社員を巻き込んでいく。正しい動きを定義する仕組みに、その動きに意味を与え、継続させる工夫である仕掛けを組み合わせるのです。
「仕組」と「仕掛」は両輪である
ここで、「仕組」と「仕掛」という2つの言葉を、明確に区別しておきたいと思います。
仕組は、正しい動きを定義するものです。目標設定や行動管理がこれにあたります。一方、仕掛は、その動きに意味づけをしたうえで、動きを継続させる効果を持つものです。具体的には、人事評価制度、インセンティブや賞与、社内イベント、表彰制度、キャリアフォローなどが、仕掛にあたります。
仕組を整えても、人は「やらされている」と感じれば動かない。大切なのは、仕組と仕掛の両輪です。仕組が「何をすべきか」という道筋を示し、仕掛が「なぜ、それをやりたいと思えるか」という動機を与える。この両輪が揃って初めて、組織は自律的に、そして継続的に動き始めます。

具体例——個人 × チームのインセンティブ設計
仕掛けの一例として、インセンティブ設計を紹介します。多くの企業では、インセンティブが個人の成果に対してのみ設計されています。たとえば管理者は、通常は粗利金額の8%、目標達成時にはそれに加えて達成金額から目標金額を引いた額の10%、スタッフは通常が粗利金額の5%、目標達成時にはそれに加えて達成金額から目標金額を引いた額の8%、といった具合です。
これはこれで機能しますが、個人インセンティブだけだと、どうしても「自分の数字さえ達成すればいい」という意識になりがちです。
そこで、この個人インセンティブに付随する形で、チーム全体でのインセンティブを設計することを提案しています。たとえば、チームの予算達成率が120%以上なら一律●●円、100%から119%なら一律●●円、といった、チーム単位の報酬を上乗せするのです。
すると何が起きるか。横を意識する動きが生まれます。自分の数字だけでなく、隣のメンバーの進捗も気になり始める。達成しているメンバーが、遅れているメンバーを助けるようになる。管理者を中心に、目標達成に向けて「自分たちで何ができるか」を考える風土へと変わっていく。個人戦だった組織が、チーム戦になる。これが、社内の雰囲気そのものを改善していくのです。

もちろん、仕掛けはインセンティブだけではありません。金銭的な報酬だけに頼れば、それが当たり前になった瞬間に効果は薄れます。表彰制度で努力に光を当てる、社内イベントで一体感を醸成する、キャリアフォローで「この会社で成長できる」という実感を与える。その組織の社員が何にモチベートされるのか、というニーズを確認したうえで、複数の仕掛けを組み合わせることが重要です。仕掛けの設計に、唯一の正解はありません。だからこそ、社員を巻き込みながら、自社に合った形を探していくプロセスそのものに意味があります。
5. 仕組み化を機能させる、最後のピース——「理論」と「共感」、そして「人」
経営者のリアルな声
ここまで、仕組み化の3要素を見てきました。次に、実際に仕組み化に取り組まれた、ある経営者の声を紹介させてください。
“ 「仕組み」と聞くと響きはいいですが、自社にとってどの仕組みが正解かわからない時は、正直、地獄でした。仕組み構築のためのトライアンドエラーを何度か繰り返し、ようやく仕組みが回り始めると、それまで噛み合っていなかった社内の連携がスムーズになったり、チームワークが生まれたりと、変化が一気に見えるようになりました。今後も会社のフェーズに合わせた仕組みの変化が必要だと思いますが、その時々で一つ一つ組み立てていけると思います。会社も次のフェーズが見えてきたので、組織全体でこの動きを繰り返していきたいです ― サービス業(従業員数:200名規模)/40代/代表取締役
この言葉に、仕組み化の本質が詰まっていると私は感じます。仕組み化は、一度つくって終わりではありません。会社のフェーズが変われば、必要な仕組みも変わる。大切なのは、完璧な仕組みを一発で当てることではなく、自社に合う仕組みを組み立てる力そのものを、組織の能力として身につけることです。その力さえあれば、次のフェーズが来ても、また自分たちで組み立てていける。受け身型組織の対極にある、自走する組織の姿です。
「理論」だけでは、組織は変わらない
そして、仕組み化の取り組み全体を貫く、私たちが何よりも大事にしている思想があります。それが、「理論」と「共感」です。
どれだけ良い仕組みを構築しても、それに携わる人たちの理解や共感がなければ、定着せず、組織の変革は実現できません。これが、数多くの現場を見てきた私たちの結論です。
先ほど「仕組みだけでは人は動かない」と述べたのと、これは同じことを言っています。緻密なロジックで組み上げた仕組みは、必要条件ではあっても、十分条件ではない。最後の一歩は、いつも人の心が握っています。
だからこそ、私たちは2つの軸を両立させることを重視します。1つは、徹底したロジックと理論を用いて仕組みを設計すること。感覚や思いつきではなく、KGI・KSF・KPIや行動の数式化といった再現性のある枠組みで、組織を動かす骨格をつくる。もう1つは、熱意を持って周囲を巻き込むこと。なぜこの変化が必要なのか、この仕組みが何のためにあるのかを、経営者自らが情熱を持って語り、一人ひとりの共感を引き出していく。
理論だけでは、人は動かない。共感だけでは、組織は続かない。この両軸を持って推進することを、私たちは何よりも大切にしています。
そして、仕組みを動かすのは「人」である
この共感と表裏一体で、もう1つ欠かせないものがあります。それは、仕組みを実際に回す「人」の力です。
どれだけ精緻な仕組みをつくっても、それを日々運用し、想定外の課題にぶつかったときに、自分で解を出せる人がいなければ、仕組みは絵に描いた餅で終わってしまいます。ここで、受け身型組織の定義を思い出してください。課題の解決や新たな試みが生まれない組織、というのがその定義でした。つまり受け身型組織とは、突き詰めれば、一人ひとりの「課題解決力」が引き出されていない状態でもあるのです。
だとすれば、やるべきことは見えてきます。仕組み、すなわち制度というハードを整えることと並行して、その仕組みを担い、自ら課題を見つけて解いていける人材、すなわちソフトを育てること。この両輪があって初めて、組織は本当の意味で自走を始めます。制度をどれだけ立派にしても、それを使いこなし、時に作り変えていく人がいなければ、組織は再び受け身に戻ってしまう。逆に、課題解決力を持つ人が育てば、仕組みは生き物のように更新され続けます。
私たちが仕組の構築・運用支援に従事しながら、「課題解決力強化道場」という形で、実際の課題を題材に、課題の構造化から解決策の立案、意思決定までのプロセスそのものを、現場で使えるレベルまで実地で鍛える場を提供しているのは、まさにこの理由からです。仕組みという器と、その器を動かす人。私たちは、その両方から組織の変革を後押ししたいと考えています。
6.「あなたがいなくても回る組織」へ
長くなりましたので、最後に要点を整理します。
受け身型組織とは、社員が指示を待ち、課題が放置され、プラスアルファの動きが生まれない組織のことでした。そしてそれは、社員の資質の問題ではなく、経営の設計の問題です。
その原因には、3つの罠がありました。1つ目は、既存ビジネスモデルの成功体験による「考え直す感覚」の欠如。歴史の長い会社が陥りやすい罠です。2つ目は、マニュアル遵守の目的化。B2Cや店舗型のビジネスに多く見られます。3つ目は、カリスマ経営者への裁量集中。急成長したベンチャーに、とりわけ多い罠です。いずれも「判断基準が社長の頭のなかにしかない」ことに根があります。
これを脱却する鍵が、経営の仕組み化でした。仕組みとは、属人的な判断基準を組織の共有財産に変え、社員を自走させるための土台です。その仕組み化は、未来から逆算した目標&勝ち筋設定によって組織全体を方向づけ、動きを可視化する定量的な行動管理によって日々の行動を見える化し、社員を巻き込む仕掛け作りによって参画に意味を与える、という3要素の掛け算で成り立ちます。
そして、それらすべてを機能させる最後のピースが、理論と共感の両立であり、その仕組みを実際に動かす人、すなわち課題解決力を持つ人材の存在でした。
「社長がいないと会社が回らない」、あるいは「自分がいないと現場が回らない」。もし今、あなたがそう感じているとしたら、それは社員のせいでも、個人の能力のせいでもありません。ただ、判断や勝ち筋が、あなたの頭のなかにとどまったまま、組織の仕組みへと翻訳されていないだけです。いわゆる属人性とは、まさしくこのような状態を指すと思います。逆に言えば、それを翻訳する仕組みをつくり、その仕組みを担える人を育てられれば、組織は驚くほど変わります。マネジメントに携わる人たちがプレイングから、より重要な、次のフェーズを描く仕事に向けられるようになるはずです。
経営の仕組み化と人材育成なら課題解決力強化道場へ
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
もし、この記事のどこかに「これは、うちのことだ」と感じる部分があったなら、ぜひ一度、お話を聞かせていただければと思います。
株式会社Bloomsでは、「課題解決力強化道場」をはじめ、経営の仕組み化と人材育成の両面から、企業の変革をご支援しています。とはいえ、いきなり研修やサービスを申し込んでいただく必要はないので、まずは状況を伺いながら、一緒に考える場としてお使いいただければと思っています。
ちなみに、「何から手をつければいいかわからない」という段階でも、まったく問題ありません。むしろ、そうした早い段階のご相談こそ歓迎しています。壁打ちの相手が一人いるだけでも、頭の中が整理されることはあるのかなと思います。「仕組み」と、それを動かす「人」のカタチを、一緒に考えていけたら嬉しいです。
お問い合わせは、課題解決力強化道場のサイトから承っています。
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・管理職のスキルにバラつきがある
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心当たりがあれば、まずご相談ください。
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※ご相談・お見積もりは無料です
筆者プロフィール
住山 崇(すみやま たかし)/株式会社Blooms 代表取締役
兵庫県尼崎市出身。立命館アジア太平洋大学卒業後、アクセンチュア株式会社に入社。ITコンサルタントとして経営指標の再設計や海外支社支援を経験し、株式会社Bloomsを設立。「次世代に選ばれる社会を創る」をモットーに、中小・中堅企業に対して、再現性のある営業組織構築、財務・管理会計を活用した数値管理体制、人事制度の整備など、多方面から経営の仕組み化を支援。また、経営人材を育成する短期集中プログラム「Blooming Career Camp」を展開し、企業の“ハード(制度)とソフト(人材)”の両面から、生産性向上を支援している。