「最近の若手は出世に関心がないから、管理職を頼んでも引き受けてもらえないのでしょうか」。昇格を打診するたびに「今のままで十分です」と返されると、世代の価値観が変わったせいに見えてくるはずです。
しかし、経営層から管理職、若手まで累計800名を超える受講者と向き合ってきた課題解決力強化道場の立場から言えるのは、「なりたくない」の多くは意欲の不足ではなく、管理職の仕事を「自分にもできる」と思える形で見せていないことから生まれる、ということです。報酬や制度を整える前に、管理職の仕事を分解して見せる順番から手を付ける会社もあります。
本記事では、管理職になりたくない社員の割合と理由から、企業が見直す制度、管理職候補を育てる順番まで、研修の現場で受講者の変化を見てきた視点で順を追ってお伝えします。
管理職になりたくない社員の割合と広がり

管理職になりたくないと考える社員は、一部の若手に限らず、働く人の多数派になっています。マンパワーグループが2020年に実施した調査では、約8割の人が「管理職になりたくない」と回答したことが、同社のコラムに明記されています。
この8割という数字は、2020年時点で同社が調査した回答者全体の結果です。業種や企業規模、管理職の処遇によって自社の割合は変わるため、自社の数字は昇格面談の記録や社員アンケートで別に確かめる必要があります。
割合以上に人事担当者が押さえたいのは、昇進の受け止め方が会社と社員で食い違っている点です。会社は昇進を評価の証として打診しますが、打診された社員は「責任と仕事が増える話」として受け取ります。
| 観点 | 会社から見た昇進 | 社員から見た昇進 |
|---|---|---|
| 責任 | 任せられる範囲が広がる | 自分以外の失敗まで背負う |
| 報酬 | 役職手当で年収が上がる | 残業代が消えて手取りが減る |
| 働き方 | 裁量が増えて動きやすくなる | 会議と調整で帰りが遅くなる |
| 将来 | 次の幹部への入口になる | 今の専門業務から離れてしまう |
管理職になりたくない6つの理由

管理職になりたくない理由は、責任・収入・人間関係・働き方・専門性・自信の6つに分かれます。研修の現場で話を聞くと、1つの理由だけで断る人は少なく、2つ以上が重なって「今回は見送りたい」という判断になっていると感じています。
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ナレッジ受け身型組織を変える-陥りがちな罠に学ぶ、社員が自ら動き出す“経営の仕組み”のつくり方-
「事業は伸びているのに、なぜか自分の手が離せない」。社員が指示待ちになる“受け身型組織”は、実は経営やマネジメントの設計の問題です。陥りがちな3つの罠をひもとき、社員が自ら動き出す「経営の仕組み化」の3要素を、現場の実例とともに解説します。
責任が重すぎると感じるから
管理職を避ける理由でいちばん挙がりやすいのは、責任の重さです。一般社員のうちは自分の担当業務だけに責任を負えば済みますが、管理職になると部下の失敗や部署全体の数字まで問われます。
「自分が採用したわけでもない人の結果に、なぜ責任を取るのか」という疑問は、管理職を経験した人の手記にも率直に書かれています。不安を大きくしているのは責任の重さそのものより、どこまでが自分の責任なのかを会社から示されていないことだと見ています。
残業代が出ず収入が下がるから
管理職になると残業代が出なくなり、一般社員だった頃より手取りが減ることを心配する人がいます。残業の多い部署ほど、役職手当より残業代のほうが多かったという逆転が起こりやすくなります。
管理職でも残業代が出る場合
残業代の対象から外れるのは、労働基準法第41条の「管理監督者」に当たる人です。管理監督者かどうかは課長や店長といった役職名ではなく、権限・働き方・待遇の実態で判断されます。管理監督者に当たる場合でも、午後10時から午前5時までの深夜労働には割増賃金が支払われます。
社員が気にしているのは法律の線引きより、自社で昇格した先輩の年収が実際に上がったかどうかです。先輩の手取りが下がった話が社内で広まると、制度を説明しても不安は消えません。
上司と部下の板挟みになるから
中間管理職になると、経営層の方針と現場の不満の両方を受け止める立場になります。上からは数字の達成を求められ、下からは人手や予算の不足を訴えられ、どちらにも十分に応えられない場面が続きます。
板挟みのつらさは、方針の背景を自分の言葉で部下に説明できないときに大きくなります。経営層の決定をそのまま伝えるだけの役割だと感じた社員は、管理職を「割に合わない仕事」と受け止めるはずです。
仕事と家庭の両立が難しいから
管理職になると会議や部下との面談、急なトラブル対応が増え、勤務時間が読めなくなると考える人がいます。育児や介護を抱えている社員ほど、定時で帰れない働き方は引き受けられないと判断します。
実際に周りの管理職が夜遅くまで残り、休日にもメールを返している姿を見ていれば、両立できないと考えるのは自然な判断です。両立の不安は本人の意欲ではなく、管理職の働き方の見え方から生まれています。
現場の専門業務を続けたいから
技術職や営業職など、専門性の高い仕事にやりがいを感じている人ほど、現場を離れることを嫌います。管理職になると自分で手を動かす時間が減り、部下の仕事を確認したり調整したりする時間が中心になるためです。
専門業務を続けたい社員にとって、管理職への昇進は「得意な仕事を手放す話」に聞こえます。管理職以外に昇格の道が無い会社では、専門性の高い社員ほど昇進を断るか、専門職として評価してくれる会社への転職を考えます。
部下を育てる自信がないから
部下を指導したり評価したりする自信が持てないことも、管理職を避ける理由になります。人と話すのが苦手な人や、自分の仕事で手一杯だと感じている人は、他人の成長にまで責任を持てないと考えます。
自信のなさは6つの理由の中でいちばん表に出にくい理由です。面談で本人が口にするのは「責任が重い」「家庭がある」といった他の理由であることが多く、自信のなさは本人も言葉にしていない場合があります。
若手と女性が管理職を避ける事情

若手社員と女性社員には、6つの理由に加えて、それぞれの立場に特有の事情があります。同じ「なりたくない」でも、会社が見直す点は層ごとに違います。
| 層 | 特有の事情 | 会社が見直す点 |
|---|---|---|
| 若手社員 | 転職や副業も含めてキャリアを考え、1社で昇進し続ける前提を持っていない | 管理職経験が社外でも通用するスキルになることを、具体的な業務で示す |
| 女性社員 | 身近に女性管理職がおらず、育児と両立している姿を想像できない | 短時間勤務や在宅勤務と管理職を両立できる制度と、実際の前例を作る |
若手の「なりたくない」は、管理職を一生の仕事として選ぶかという問いに対する答えです。数年間の経験として管理職を任せる形にすると、受け止め方が変わる人もいます。女性社員の場合は、制度があっても使った前例が無ければ不安は消えないため、最初の1人を会社が支える体制が欠かせません。
管理職志向の低下が企業にもたらす3つのリスク

管理職になりたい社員が減ると、企業には意思決定の遅れ・後継候補の不在・今の管理職への負担の集中という3つのリスクが生じます。次の項目に当てはまる会社では、3つのリスクがすでに表に出始めています。
- ✓昇格の打診を2年続けて断られた社員がいる
- ✓課長職の空席を部長が兼務している部署がある
- ✓管理職の平均年齢が5年前より上がっている
意思決定の遅れ
管理職の席が埋まらないと、現場で決められることまで上の役職に持ち上がり、判断が遅れます。部長が複数の課を兼務している状態では、1つの案件の承認に何日もかかり、現場は返事を待つ時間が増えます。
判断の遅れは、顧客への回答の遅れや、競合に先を越される場面として表に出ます。現場で判断できる人がいないこと自体が、会社の動きの速さを決めてしまいます。
次の管理職候補の不在
管理職を引き受ける人がいないと、今の管理職が退職や異動をした時に後任が見つかりません。後任がいないまま年功で無理に昇格させると、準備ができていない管理職が生まれ、部下の離職につながります。
後継候補の不足は、部長や役員といった上の層にも数年遅れで広がります。課長を経験した人が少なければ、次の部長候補もそれだけ少なくなるためです。
今の管理職への負担の集中
引き受け手がいない分の仕事は、今いる管理職に積み上がります。兼務や部下の増加で管理職の帰りが遅くなると、その姿を見た一般社員はさらに管理職を避けるようになります。
負担の集中は、管理職志向の低下をさらに進める循環を生みます。制度や研修で手を打つときは、新しい管理職を増やす施策と同時に、今の管理職の負担を減らす施策を並べて進める必要があります。
管理職になりたくない本音にある自信のなさ

管理職になりたくないという本音の奥には、「管理職の仕事を自分がこなしている姿が想像できない」という自信のなさが隠れていることが多いと見ています。責任や残業、板挟みといった理由は、管理職の仕事の進め方を知らないほど大きく見えるからです。
たとえば部署の売上が目標に届かなかったとき、原因を「顧客数」「成約率」「単価」に分けて数字を確かめる手順を知っている人は、どこから手を付けるかを決められます。手順を知らない人には、売上の未達がそのまま「自分の責任の重さ」として迫ってきます。同じ管理職の仕事でも、課題を整理する型を持っているかどうかで、負担の感じ方がまるで違います。
では、社員はなぜ管理職の仕事を「できない仕事」だと感じるのか。社員が毎日見ている手本は、今の上司だからです。会議と調整に追われ、部下の相談に答えきれず、夜遅くまで残っている上司を見ていれば、「あの人のようにはなりたくない」と考えるのは自然です。
とりわけ見落とされがちなのが、今の管理職自身も課題を整理する型を教わらないまま任されてきたという点です。プレイヤーとして成果を出した人が昇格し、部下の指導や部署の課題の整理は自己流で乗り切ってきた会社では、管理職の仕事が「大変そうな仕事」にしか見えません。
知っていることと、実務でできることの間にも差があります。論理的思考の本を読んでいる管理職でも、自分の部署の課題を実際に分解してみると手が止まる場面は珍しくありません。課題解決力強化道場の受講者からも、次のような声が寄せられています。
“ロジカルシンキング等は本で学んでいたので、自分でできているという自負がありましたが、実際に講師の方のフィードバックを受けて、まったくできていないことを痛感しました。― 課題解決力強化道場 受講者の声(製造業・経営企画室)
管理職になりたくない社員を減らす近道は、管理職の仕事の魅力を語ることより、管理職の仕事を「型を使えば自分にもできる仕事」として見せることです。社員の「なりたくない」が、価値観による選択なのか、自信のなさから来ているのかは、次の表の言葉で見分けられます。
| 本人の言葉 | 背景にあるもの | 会社の打ち手 |
|---|---|---|
| 「専門の仕事を続けたい」「家庭を優先したい」 | 働き方の価値観による選択 | 専門職としての昇格の道と、両立できる制度を用意する |
| 「自分には向いていない」「今の上司のようにはできない」 | 管理職の仕事の進め方を知らないことによる自信のなさ | 昇格の前に課題を整理する型を学ぶ機会と、小さな管理経験を用意する |
前者の社員を無理に説得すると離職につながりますが、後者の社員は準備の機会があれば考えを変えることがあります。打ち手を間違えないためにも、昇格面談では「なりたくない」の後ろにある言葉まで聞き取る必要があります。
管理職希望者を増やす制度と育成の4つの手順

管理職希望者を増やす手順は、報酬の確認、業務の棚卸し、型の習得、管理経験の積み重ねの4つで、上から順に進めます。報酬で損をする制度が残ったまま研修をしても、社員は昇格を引き受けないためです。
報酬と残業代の逆転の確認
最初に確かめるのは、昇格した人の年収が昇格前より下がっていないかです。直近で昇格した社員の昇格前1年の残業代と、昇格後の役職手当を並べると、逆転している人がいるかがわかります。
逆転が見つかった場合は、役職手当の額を見直すか、昇格後の基本給の上がり幅を広げます。人件費が増えるため経営層の判断が必要になりますが、逆転を残したまま他の施策を進めても、昇格を断る理由は残り続けます。
管理職の業務の棚卸し
次に、今の管理職が抱えている業務を書き出し、管理職でなくてもできる業務を外します。管理職の帰りが遅い会社では、部署の判断と関係の薄い作業が管理職に集まっていることがほとんどです。
- ✓毎月の数字の集計と報告資料の作成
- ✓発言の機会が無いまま出席している会議
- ✓部下の勤怠や経費の細かな確認作業
こうした作業を事務担当や各メンバーに移すと、管理職は部署の課題の整理と部下との対話に時間を使えます。一般社員から見える管理職の姿が変わることが、棚卸しのいちばんの効果です。
課題を整理する型の習得
3つ目の手順では、管理職候補が昇格する前に、課題を整理して打ち手を決める型を身につけます。課題をロジックツリー(大きな問題を原因ごとに枝分かれさせて整理する図)で分解し、どの原因から手を付けるかを決める練習です。
学ぶ題材は、一般的な事例より自社の実務課題のほうが効果が出やすいと見ています。自部署の数字を使って分解してみると、型を知っていることと実際に使えることの差に本人が気づき、管理職の仕事を具体的な作業として捉えられるようになります。昇格の後ではなく前に型を学ぶことで、「できる気がしない」という不安を先に小さくできます。
小さな管理経験の積み重ね
最後に、正式な昇格の前に、プロジェクトのリーダーや新人1人の指導役といった小さな管理経験を任せます。人を管理する仕事は、やってみて初めて自分の適性に気づく人もいるためです。
小さな管理経験を任せるときは、期間と範囲を決め、本人の同意を得てから始めます。給料が変わらないまま責任だけを増やすと、管理職をさらに避ける理由になってしまうため、経験した役割は人事評価に反映させます。
「学んで終わり」にしない研修を
課題解決力強化道場は、
外資系コンサル出身の現役プレイヤーが直接指導するハンズオン型研修です。
知識習得で終わらない、行動が変わる研修をご提供いたします。
少人数制 × ハンズオン × 超実践型
それでも管理職を望まない社員の処遇

4つの手順を進めても管理職を望まない社員には、管理職とは別の道で昇格できる仕組みを用意します。管理職と専門職の2本の昇格の道を設ける仕組みは、複線型人事制度と呼ばれます。
複線型人事制度は、専門職の等級に見合った報酬を設けて初めて機能します。専門職の上限が管理職より大きく低いと、専門職は「管理職になれなかった人の道」と受け止められ、専門性の高い社員の離職を防げません。一方で、専門職の報酬を管理職と同じ水準まで上げると人件費が増えるため、専門職の等級ごとに求める成果を決めてから報酬を設定します。
管理職を望まない理由が価値観による選択なのか、自信のなさなのかは、面談で次の3点を聞くと見えてきます。
- 01管理職の仕事のうち、何がいちばん引き受けにくいか
- 02期間や範囲を限れば引き受けられるか
- 035年後にどんな仕事をしていたいか
1点目の答えが「部下の指導」や「数字の責任」なら、型の習得や小さな管理経験で考えが変わる余地があります。3点目の答えが特定の専門分野に向いているなら、専門職の道を示すほうが本人の力を活かせます。
管理職になりたくない問題のよくある質問

管理職への昇進は本人が断れるか
管理職への昇進の打診は、本人が断ることもできます。ただし、就業規則で会社が昇進を命じられると定めている場合、昇進は会社の人事権として扱われ、正当な理由の無い拒否は業務命令違反と判断されることがあります。育児や介護などの事情があるときは、昇進の時期をずらすなど話し合いで決める余地があります。会社側で判断に迷う場合は、就業規則の昇進・昇格の条項を確かめたうえで、社会保険労務士など労務の専門家に確認します。
管理職になりたくない社員の評価を下げてよいか
管理職になりたくない社員の評価を、管理職を望まないことだけを理由に下げるべきではありません。人事評価は今の等級で求める成果に対して行うものだからです。ただし、上の等級の要件に部下の指導が含まれている場合、昇格できないことはあり、昇格の要件と今の評価は分けて本人に説明します。評価を下げると専門性の高い社員の離職につながるため、専門職の道とあわせて伝えます。
プレイングマネージャーなら負担は軽いか
プレイングマネージャーは、管理職より負担が軽くなるとは限りません。自分の担当の数字を持ちながら部下の管理もするため、両方の仕事を抱えて帰りが遅くなりやすいからです。負担が軽くなるのは、プレイヤーとしての担当業務の量を管理職になる前より減らした場合です。担当を減らさないまま任せると、本人も周りも管理職をさらに避けるようになります。
管理職研修は昇格の前と後のどちらで行うか
管理職研修は、昇格の前から始めると管理職を引き受ける人が増えやすいと見ています。昇格の後に研修をする会社が多いものの、昇格の前に課題を整理する型を学んでおくと、「できる気がしない」という不安を打診の時点で小さくできるからです。すでに管理職になっている人には、昇格後の研修で自部署の課題を題材にし、部下の手本になる仕事の進め方を身につけてもらいます。
管理職候補の育成なら課題解決力強化道場へ

管理職になりたくない社員を減らすには、報酬の逆転を正し、管理職の業務を減らしたうえで、管理職の仕事を「型を使えば自分にもできる仕事」に変える育成が欠かせません。課題解決力強化道場はこれまで、経営層から管理職、若手まで累計800名を超える受講者の課題解決力を、自社の実務課題を題材にして鍛えてきました。
課題解決力強化道場は、1クラス10名以内の少人数制で、アクセンチュアやPwCコンサルティングなど外資系コンサルティングファーム出身の現役コンサルタントが、毎回の個別フィードバックで受講者の課題の整理を見ていく超実践型の研修です。人材紹介業の部門長クラスを対象にした研修では、受講者全体の87%が「マネジメントの変化」を実感しています。
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