「売上は落ちていないのに、なぜか利益率だけが下がっている」。決算書を眺めながら、そんな違和感を抱く経営者や経理担当者は多いはずです。売上という一番目立つ数字が保たれていると、利益率の低下は一時的なものだと考えてしまいがちだからです。
しかし、数多くの中小企業の課題解決を支援してきた立場から言えるのは、利益率の低下はたいてい売上ではなく利益の構造そのものに原因が潜んでいる、ということです。原価や固定費の増え方、商品ごとの採算のばらつきといった、売上の数字には表れない部分に手を付けない限り、同じ低下は繰り返されます。
本記事では、利益率が下がるしくみの整理から、原因を三つの層に切り分ける見方、そして自社で着手できる改善の順序まで、実務の視点で順を追ってお伝えします。
利益率とは何を指すのか

利益率の低下を考える前に、そもそも自社がどの利益率を見ているのかを明確にする必要があります。ひとくちに利益率と言っても、売上のどの段階の利益を見るかで意味も改善の打ち手もまるで変わってくるからです。
利益率とは、売上高に対して利益がどれだけの割合を占めるかを示す指標です。同じ「利益率が下がった」という言葉でも、粗利の段階で下がっているのか、営業段階で下がっているのかによって、疑うべき原因はまったく別のものになります。まずは代表的な三つの利益率を押さえておきましょう。
売上高総利益率(粗利率)
売上高総利益率は、売上から売上原価を引いた売上総利益(粗利)が、売上に対してどれだけの割合かを示すものです。計算式は「売上総利益 ÷ 売上高 × 100」で求めます。仕入や製造にかかる原価がどれだけ利益を圧迫しているかを映す指標であり、ここが下がっているなら原価や販売価格に目を向けることになります。
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売上高営業利益率
売上高営業利益率は、粗利からさらに人件費や広告費、家賃といった販売費および一般管理費を差し引いた営業利益の割合です。本業でどれだけ稼げているかを示す、経営の実力に最も近い数字と言えます。粗利率は保たれているのに営業利益率だけが下がっているなら、原価ではなく固定費側に原因があると見当がつきます。
売上高経常利益率
売上高経常利益率は、営業利益に受取利息などの営業外収益を足し、支払利息などの営業外費用を引いた経常利益の割合です。借入の利息負担なども含めた、企業全体の総合的な収益力を表します。銀行が融資審査で重視する指標のひとつでもあり、金融機関との関係を考えるうえでも無視できません。
まず確認すべきこと
粗利率・営業利益率・経常利益率のうち、どの段階で下がっているかを直近数期分で並べてみてください。下がり始めた段階が、原因の潜んでいる場所を教えてくれます。
利益率が低下する原因は三つの層に分かれる

利益率が下がる原因は無数にあるように見えて、整理すると三つの層に集約されます。原価の層、費用の層、そして売上と価格の層です。どの層で起きているかを見分けられれば、闇雲に対策を打つ必要はなくなります。ここが本記事のいちばんの要点です。
第一の層|変動費率の増加で粗利が削られる
利益率の低下で最も起こりやすいのが、変動費率の上昇です。変動費率とは、売上高に対する変動費の割合を指します。近年は原材料の価格高騰や円安の影響で仕入原価が上がり、売上が同じでも粗利が薄くなっているケースが目立ちます。
仕入価格が上がっているのに販売価格を据え置いていれば、その差はそのまま粗利の減少として跳ね返ります。売上の数字だけを見ていると気づきにくく、粗利率を時系列で追って初めて表面化する低下です。原価の上昇分を価格に転嫁できているかどうかが、ここでの分かれ目になります。
第二の層|固定費の増大が営業利益を圧迫する
粗利率は変わっていないのに営業利益率が下がっている場合、原因は固定費側にあります。固定費は売上の増減に関わらず一定額が発生するため、売上が伸び悩む局面では利益を強く圧迫します。人員の増加、オフィスの拡張、新しいシステムの導入など、事業拡大のために増やした費用が、成長の鈍化とともに重荷に変わっている状態です。
とりわけ見落とされがちなのが、目的が曖昧なまま続いている費用です。かつて必要だった契約やサービスが、惰性で更新され続けていることは珍しくありません。
第三の層|売上減少と価格設定のゆがみ
売上高の減少そのものも利益率を下げる要因です。売上が減れば変動費も連動して減りますが、固定費は一定のままです。裏を返せば、売上が落ちるほど固定費の重みが相対的に増し、利益率が下がっていくのです。
加えて、原価に一定の利益を積み上げるだけの価格設定になっていると、市場の実勢とずれた値付けになり、値引き競争に巻き込まれて粗利を失うことがあります。売上至上主義に陥り、採算を度外視して受注を追いかけている場合も、売上は保たれても利益率は静かに下がっていきます。
“ 売上高と原価は、どちらも利益率に影響する要素です。生産管理や経理業務を最適化することで、利益率の低下を防げます。 ― DAIKO XTECH「製造業の利益率目安とは」
業種別に見る利益率の目安

自社の利益率が下がったとして、それが危険な水準なのか、業種としては標準的なのかは、目安と照らし合わせないと判断できません。利益率の適正水準は業種によって大きく異なるため、他業種の数字と比べても意味がないからです。
一般に、売上高経常利益率は全業種平均でおおむね数パーセント台に収まることが多く、卸売業のように取扱高が大きく利幅の薄い業種では低めに、サービス業やソフトウェア業のように原価の比率が小さい業種では高めに出る傾向があります。製造業の場合、営業利益率の目安はおおよそ3〜5パーセント前後が一つの基準とされることが多いです。
- ✓粗利率が低い業種は、そもそも薄利多売の構造であることが多い
- ✓同業種の平均と比べて初めて自社の位置が分かる
- ✓目安を下回っていても、下がり続けていなければ過度に恐れる必要はない
大切なのは、絶対的な数字の高低よりも、自社の利益率が下がり続けているのか、それとも一時的な変動にとどまっているのかという傾向です。目安はあくまで自社の位置を知るための物差しであり、数字そのものを追いかけるものではありません。
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利益率を改善する五つの手順

原因の層が見えたら、次は改善に着手します。ただし、やみくもにコストを削ればよいわけではありません。順序を誤ると、削ってはいけない費用に手を付けて事業の体力を落としてしまうからです。ここでは実務で効果の出やすい順に五つの手順を整理します。
- 01利益率が下がっている商品やサービスを特定する
- 02販売価格と原価の関係を見直す
- 03無駄な固定費を削減する
- 04業務を効率化して生産性を高める
- 05財務面から資金の流れを整える
利益率が下がっている商品やサービスを特定する
まず着手すべきは、どの商品やサービスで利益率が下がっているかの特定です。全社の平均利益率だけを見ていると、稼ぎ頭の利益で赤字商品の損失が覆い隠され、問題の所在が見えなくなります。商品別、事業別に利益率を分解すると、足を引っ張っている領域がはっきりします。特定さえできれば、価格を上げるのか、扱いをやめるのか、判断の土台ができます。
販売価格と原価の関係を見直す
粗利率の低下に最も効くのが、販売価格の見直しです。商品やサービスの提供価格を上げれば、その分だけ粗利は増えます。原価が上がっているのに価格を据え置いてきた企業ほど、ここに改善の余地が残っています。あわせて、大量発注による仕入単価の引き下げ交渉や、長期契約による調達コストの低減も検討できます。価格を上げることへの心理的な抵抗は大きいものですが、適正な値付けは経営を守るための当然の行為です。
無駄な固定費を削減する
営業利益率の改善には、固定費の点検が欠かせません。ただし削減の対象は、成果を生んでいない費用に限ります。すべての契約やサービスを一覧にし、それが今も利益に貢献しているかを一つずつ確かめてください。削るべきは惰性で続く支出であって、将来の売上を生む投資まで一律にカットすれば、かえって利益率を悪化させます。
業務を効率化して生産性を高める
同じ売上を、より少ない手間とコストで生み出せれば、利益率は自然と上がります。手作業で行っている集計や管理をシステムに置き換える、重複した工程を統合するといった効率化は、固定費を大きく増やさずに生産性を高める手段です。生産管理や経理業務の最適化は、原価と費用の両面から利益率の低下を食い止める効果があります。
財務面から資金の流れを整える
経常利益率まで下がっている場合は、借入の利息負担など財務面にも目を向けます。金利の高い借入の借り換えや、余剰在庫の圧縮による資金効率の改善は、営業外の費用を減らし経常利益率を押し上げます。本業の改善と並行して、資金の流れそのものを整えることが、企業全体の収益力を底上げします。
コスト削減だけでは利益率は上がらないという落とし穴

利益率を上げようとすると、多くの企業がまずコスト削減に走ります。費用を減らせば利益が増えるという発想は分かりやすく、着手もしやすいからです。ところが、上位ページの多くが原価削減や固定費カットを強調する一方で、あまり語られない核心があります。
それは、コスト削減には必ず限界があるということです。費用をゼロにはできない以上、削減で稼げる利益率には上限があります。しかも削りすぎれば、品質やサービス、人材といった売上を支える土台まで痩せ細り、かえって利益率を下げてしまいます。比較記事ではほとんど触れられませんが、削減一辺倒の改善はどこかで頭打ちになるのです。
だからこそ、本当に持続する利益率の改善は、費用を減らす発想と、付加価値を高めて価格や粗利を伸ばす発想の両輪で進める必要があります。値付けを変える、利益率の高い商品を開発する、不採算事業から撤退して経営資源を集中させる。こうした攻めの打ち手は、コスト削減とは別の頭の使い方を要求します。どこにコストの無駄があり、どこに付加価値の伸びしろがあるのかを見抜く力こそが、利益率改善の分かれ目になります。
利益率の低下でよくある質問

利益率の低下をめぐって、経営の現場で繰り返し聞かれる疑問を整理しておきます。
売上と利益はどちらを優先すべきですか
利益を優先すべきです。売上は事業を続けるための入口にすぎず、手元に残る利益がなければ企業は存続できません。売上を追いかけるあまり採算の合わない受注を重ねれば、売上は増えても利益率は下がります。まず適正な利益を確保できる事業構造を整え、その土台の上で売上を伸ばす順序が健全です。
売上高営業利益率が低い会社はなぜ危険なのですか
本業で稼ぐ力が弱く、外部環境の変化に耐えにくいからです。営業利益率が低いと、原材料の値上がりや売上の一時的な落ち込みだけで、すぐに赤字へ転落しかねません。利益の余裕が薄い企業ほど、不測の事態に対する備えが乏しく、資金繰りの悪化から黒字倒産に至る危険もあります。
利益率の低下は何期分を見れば判断できますか
最低でも直近三期分を並べて判断してください。単年の数字だけでは、一時的な要因による変動か、構造的な低下かを見分けられません。三期以上を時系列で追い、下降が続いているようであれば、原価か固定費か価格のいずれかに根本的な原因があると考えるべきです。
利益率の低下を止める力を鍛えるなら課題解決力強化道場

利益率の低下は、粗利・営業利益・経常利益のどの段階で起きているかを見極め、原価・固定費・価格の三つの層に切り分けて原因を特定することから改善が始まります。そしてコスト削減と付加価値向上の両輪で打ち手を組み立てる。この一連の流れは、手法を一度学んだだけで身につくものではなく、自社の数字を題材に手を動かして初めて使えるようになります。
課題解決力強化道場は、外資系コンサルティングファーム出身の現役コンサルタントが講師を務める、少人数制・ハンズオン・超実践型の研修です。自社の実務課題そのものを題材に、原因を切り分け、打ち手を組み立てるまでの思考の進め方を、毎回の個別フィードバックを受けながら鍛えられます。利益率の低下のような正解のない経営課題に、担当者自身が答えを出せる状態をつくることを目指しています。
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