コラム

思考力

デザイン思考|5つのプロセスと実践で気をつけるべきこと

「ユーザー視点で考えよう」「共感からはじめよう」——デザイン思考という言葉は、ビジネスの現場でずいぶん定着してきました。しかし同時に「やってみたけれど、いいアイデアが出なかった」「プロセスは理解しているのに、なぜか使いこなせない」という声も少なくありません。

デザイン思考は、ユーザーの体験・感情を起点に課題を発見し、試作と検証を繰り返しながら解決策を形にしていく思考プロセスです。スタンフォード大学のd.schoolが広めたこのアプローチは、AppleやP&G、IBMをはじめ多くのグローバル企業で取り入れられてきました。

ただし、万能なツールではありません。どんな課題にも使えると思って導入すると、むしろ失敗するリスクが高いのがデザイン思考の特性です。

本記事では、デザイン思考の定義と5つのプロセス、他の思考法との違い、メリットと注意点、そして実際の業務で機能させるための視点を解説します。

デザイン思考とは何か

デザイン思考(Design Thinking)とは、デザイナーが製品を生み出すときの思考プロセスをビジネスの課題解決に応用した手法です。その本質は、「問題を解く前に、問題を正しく定義する」という点にあります。

多くのビジネス上の失敗は、「解くべき問いを間違えた」ことから生まれます。顧客が欲しいと言ったものを作ったのに売れなかった、という体験はその典型です。デザイン思考は、ユーザーへの深い共感を通じて「本当の課題」を見つけ出すことを、プロセスの最初に置いています。

IBMはデザイン思考を「ユーザーを最優先に考える、非線形でソリューションベースのイノベーション・フレームワーク」と定義しています。「非線形」という言葉が重要で、デザイン思考のプロセスは一方向に進む直線ではなく、何度も行き来しながら精度を高めていく繰り返しの構造になっています。

デザイン思考が注目された背景

デザイン思考がビジネスで広まったのは、2000年代以降のことです。市場が成熟し、「モノ」の機能や価格だけでは差別化できなくなった時代に、ユーザーの感情・体験・文脈に踏み込む必要が出てきたためです。

「ほしいものは何でも手に入る世の中」では、ユーザーは自分が何を欲しいかをうまく言語化できないことがあります。だからこそ、観察・対話・共感を通じて「潜在的なニーズ」を発掘するアプローチが価値を持ちます。VUCAと呼ばれる不確実な時代においても、仮説を素早く試作してフィードバックを得るデザイン思考のサイクルは、変化への適応手段として機能します。

デザイン思考の5つのプロセス

デザイン思考は、次の5段階のプロセスとして説明されることが一般的です。ただし、後述するように「一方向に順番どおりに進む」ものではなく、各ステップを行き来しながら進めるのが実態です。

① 共感(Empathize)

ユーザーの行動・感情・文脈を深く理解するステップです。インタビュー・観察・シャドーイング(ユーザーに密着して行動を追う)などの手法を使い、ユーザーが置かれた状況をできる限りリアルに把握します。

ここで重要なのは、「自分たちが正しいと思っているユーザー像」を一旦手放すことです。思い込みのままリサーチを進めると、見たいものしか見えなくなります。特に社内で長年プロダクトや事業に関わってきた人ほど、「ユーザーのことは分かっている」という確証バイアスが強くなりがちです。

② 定義(Define)

共感フェーズで得た情報を整理し、「本当に解くべき課題」を言語化するステップです。「POV(Point of View)ステートメント」と呼ばれる形式で、「〔ユーザー〕は〔ニーズ〕を必要としている。なぜなら〔インサイト〕だから」という文で課題を定義します。

このステップが最も重要でありながら、最も省略されやすい部分でもあります。「早くアイデアを出したい」という焦りから、課題の定義を曖昧なままにしてしまうと、次の概念化フェーズで「誰のための解決策なのか分からない」アイデアが量産されます。1位の検索結果にあった「ゴミみたいなアイデアを量産してしまう」という批評は、多くの場合このステップの不徹底に起因しています。

③ 概念化(Ideate)

定義した課題に対して、できるだけ多くのアイデアを発散させるステップです。ブレインストーミング、SCAMPER法、マインドマップなどの手法が使われます。「批判しない」「量を優先する」というルールのもと、非現実的に見えるアイデアも含めて広げていきます。

ここで気をつけたいのは、概念化フェーズはあくまで「発散」であり、収束は次のステップ以降で行うという点です。評価・批判を同時にしながらアイデア出しをすると、発散が起きず、いつも似たような無難な案だけが残ります。

④ 試作(Prototype)

アイデアを素早く形にするステップです。精巧なモノを作る必要はなく、紙のモックアップ・動画・ロールプレイなど、検証に足るレベルの試作物(プロトタイプ)を短時間で用意します。

プロトタイプの目的は「完成品の提示」ではなく「仮説の検証」です。プロトタイプを作ることで初めて、「このアイデアはどこに穴があるか」が見えてきます。費用と時間をかけた完成品で検証するのではなく、安価・短時間のプロトタイプで早期に失敗することが、全体のコストを下げます。

⑤ テスト(Test)

プロトタイプを実際のユーザーに使ってもらい、フィードバックを得るステップです。ここで得た情報は、①共感や②定義に戻るきっかけになることも多く、プロセス全体がループしながら精度を上げていきます。

テストフェーズの落とし穴は、「自分たちが見せたいものを見てもらう」になってしまうことです。ユーザーの反応を素直に受け取り、仮説を修正できるかどうかが、このフェーズの質を決めます。

デザイン思考と他の思考法との違い

デザイン思考は、よく似た文脈で語られる「アート思考」「ロジカルシンキング」「システム思考」と比較されます。それぞれの役割の違いを整理しておくと、デザイン思考をどの局面で使うべきかが見えてきます。

アート思考との違い

アート思考は、「自分の内側にある問い」を起点に、社会の常識や既存の枠組みを疑い、まったく新しい価値を生み出そうとするアプローチです。デザイン思考が「ユーザー(他者)の課題」を起点にするのに対して、アート思考は「自分が本当に面白いと感じるもの」を起点にします。

ゼロから革新的な概念を生み出したい場合はアート思考が強みを発揮し、ユーザーの課題を丁寧に解決する場合はデザイン思考が向いています。どちらが優れているかという話ではなく、目的によって使い分けるものです。

ロジカルシンキングとの違い

ロジカルシンキングは、情報を論理的に構造化し、筋道立てて問題を解くための思考法です。デザイン思考が「共感と試作」によって答えを発見していくのに対して、ロジカルシンキングは「既知の情報から論理的に答えを導く」プロセスです。

課題が明確で、データや情報が揃っている状況ではロジカルシンキングが有効です。一方、課題そのものが曖昧で、ユーザーのニーズが見えていない状況では、デザイン思考のアプローチが先に来ます。

システム思考との違い

システム思考は、問題を生み出している構造全体(因果のループや相互作用)を把握し、根本原因に働きかける思考法です。デザイン思考が「誰のどんな体験を変えるか」を問うとすれば、システム思考は「その体験を生み出している組織や社会の仕組みはどうなっているか」を問います。

複雑な組織課題や社会問題に向き合う際は、システム思考で構造を把握したうえで、デザイン思考で具体的な解決策を探るという組み合わせが有効です。


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デザイン思考を取り入れるメリット

デザイン思考が組織にもたらすメリットは、「良いアイデアが出る」という単純なものにとどまりません。プロセス自体が組織の思考様式と協働文化を変える効果を持ちます。

ユーザーのニーズを深く理解できる

デザイン思考の最大の強みは、「ユーザーが言語化できていないニーズ」を発見できる点にあります。従来のアンケートやインタビューでは「欲しいと思うもの」しか拾えませんが、観察・共感のプロセスを通じると、ユーザー自身も気づいていなかった行動パターンや不満が見えてきます。

P&Gが「Swiffer」というクイックルワイパー系製品を開発した際、消費者調査では「もっと強力な洗剤がほしい」という回答が多かったそうです。しかし実際の生活現場を観察すると、そもそも掃除を始める手間のハードルが高いことが根本的な課題だとわかり、「手軽に使い捨てできる掃除道具」というコンセプトが生まれました。これはデザイン思考の共感と定義が機能した典型的な例です。

失敗のコストを早期に下げられる

「試作→テスト→修正」のサイクルを素早く回すことで、完成品になった段階での大きな失敗を防げます。プロトタイプは意図的に「安く・早く・荒く」作るため、失敗したとしてもダメージが小さく、むしろ「早く失敗できた」ことがメリットになります。

組織の共感力とチーム力が高まる

デザイン思考は本来、多様なバックグラウンドを持つ人が集まって行うプロセスです。共感フェーズでユーザーの体験を一緒に掘り下げ、アイデアを持ち寄って試作する過程で、チームメンバー間の相互理解と信頼が深まります。「会議でいつも同じ人の意見だけが通る」という組織の場合、デザイン思考のプロセスを使うことで、多様な視点が自然に引き出せるようになることもあります。

デザイン思考の注意点と向き・不向き

デザイン思考の限界を正しく理解することは、効果的に使うための前提条件です。「デザイン思考さえやれば解決する」という期待で導入すると、失望を生みやすくなります。

ゼロベースの創出には向かない

デザイン思考は、既存のユーザー体験を改善・再設計するのに特に力を発揮します。一方で、まだ誰も体験したことのない革新的な概念を生み出す「0→1」の創出には不向きとされます。

理由は明快です。共感の対象となるユーザーが存在しない領域では、観察も共感もできません。スティーブ・ジョブズが「消費者は自分が何を欲しいかを知らない」と語ったように、スマートフォン以前の時代に「タッチスクリーンで操作するポケットサイズのコンピュータ」をユーザーインタビューで発見することは難しかったでしょう。こうした領域はアート思考や純粋な技術ドリブンのアプローチが向いています。

観察できないものへの共感には限界がある

共感のフェーズが機能するのは、ユーザーの行動や状況を観察・対話できる場合に限られます。潜在意識の深い部分にある欲求や、ユーザー本人も意識していない行動パターンは、インタビューだけでは引き出せないことがあります。行動観察・エスノグラフィー調査・ダイアリー調査など、複数の手法を組み合わせることで精度を高める必要があります。

時間とリソースの確保が必要

デザイン思考のプロセスを丁寧に行うには、それなりの時間と人的リソースが必要です。特に共感フェーズのリサーチと、プロトタイプ・テストのサイクルを複数回回すことを想定すると、「2時間のワークショップでデザイン思考をやった」という形式的な実施では成果が出にくいのが現実です。

デザイン思考は「手法を知っている」と「使いこなせる」の間に大きなギャップがあります。ワークショップで体験しただけでは、実務の現場でプロセスを回せる人材にはなりません。自社の実際の課題を題材に、繰り返しアウトプットしながら習得することが重要です。

デザイン思考と組み合わせて使えるフレームワーク

デザイン思考のプロセスをより精度高く進めるために、各ステップと相性のよいフレームワークがあります。

共感マップ

ユーザーが「見ているもの」「聞いているもの」「考えていること」「感じていること」「言っていること」「行動していること」を4〜6象限で整理するフレームワークです。インタビューや観察で得た情報を構造化するのに適しており、共感フェーズから定義フェーズへの橋渡しとして機能します。

ジャーニーマップ

ユーザーがある体験をするプロセスを時系列で可視化したマップです。各タッチポイントでのユーザーの行動・感情・満足度を描くことで、「どこに最も大きな課題(ペインポイント)があるか」を特定しやすくなります。サービス改善や新規事業開発の初期フェーズで特に有効です。

ビジネスモデルキャンバス

顧客セグメント・価値提案・チャネル・収益構造など9つの要素でビジネスモデルを1枚のキャンバスに整理するツールです。概念化フェーズで生まれたアイデアをビジネスとして成立させるために実現可能性を検討する場面で役立ちます。アイデアを「感覚的に良さそう」で終わらせず、事業として成り立つかどうかを素早く検証できます。

デザイン思考を組織に根付かせるための視点

デザイン思考を「一度体験したら終わり」ではなく、組織の課題解決力として定着させるには、いくつかの条件を意識する必要があります。

「知っている」と「使える」のギャップを越える

デザイン思考の5ステップを説明できる人は、研修を1回受ければある程度増えます。しかし、実際の業務で「この課題にデザイン思考のどのステップを使うか」を自分で判断し、チームを巻き込みながら進められる人材に育てることは別の話です。

このギャップを生む最大の原因は、「自社の実務課題に接続されていない学習」です。「架空のケースでアイデア出しをした」だけでは、実際のプロジェクトに直面したときに手が止まります。学習の設計として重要なのは、自社の現実の課題を題材に、プロトタイプを作り、フィードバックを受けるというサイクルを繰り返すことです。

心理的安全性がなければプロセスは機能しない

デザイン思考の概念化(Ideate)フェーズでは、「批判しない」「量を優先する」というルールが不可欠です。これが守られるためには、そもそも「変なアイデアを言っても笑われない」「失敗してもいい」という心理的安全性が組織に必要です。

心理的安全性が低い環境では、どんなにデザイン思考のプロセスを整えても、参加者は「無難なアイデア」しか出しません。デザイン思考の導入と並行して、管理職やリーダーの関わり方や、チームの対話の質を見直すことが必要になります。

課題解決力強化道場のアプローチ

課題解決力強化道場では、デザイン思考を含む問題解決の手法を、受講者自身の実務課題を題材にしたアウトプット型の演習で習得します。アクセンチュア・KPMG・デロイトトーマツ・PwC出身の現役コンサルタントが毎回個別フィードバックを行い、「分かる」と「できる」のギャップを埋める設計です。受講者の87%が「マネジメントの変化を実感した」という実績があります。

デザイン思考を実務で使える力に変えるなら課題解決力強化道場へ

デザイン思考のプロセスを理解することと、実際のビジネス課題にそれを使いこなすことは別のことです。「研修でやったけれど、現場では使えなかった」という体験が繰り返される背景には、知識の習得と実践の場が分断されていることが多くあります。

課題解決力強化道場は、アクセンチュア・KPMG・デロイトトーマツ・PwC出身の現役コンサルタントが講師となり、受講者自身の実務課題を題材にしたハンズオン研修を提供しています。少人数制(1クラス10名以内)で毎回個別フィードバックを実施し、「学んで終わり」にならない仕組みが特徴です。累計800名超の受講者から平均満足度95.6%という評価を得ています。

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