コラム

思考力

戦略思考トレーニングの基本|研修での鍛え方と実践のポイント


「目の前の業務はこなせるが、上司から『で、戦略は?』と聞かれると言葉に詰まる」「会議では正論を言っているはずなのに、議論が前に進まない」——こうした悩みを抱えるビジネスパーソンは多いはずです。多くの場合、原因は知識や経験の不足ではなく、考え方の組み立て方そのものにあります。

戦略思考とは、限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ・時間など)をどこに配分すれば目的を最も効率よく達成できるかを見極める思考法です。経済産業省が示すビジネスパーソンに必要な3つの能力(基礎力・専門知識・人間性)のうち、課題解決の土台となる思考力の代表格として位置づけられており、管理職や経営企画部門だけでなく、若手のうちから求められる場面が増えています。

厄介なのは、戦略思考が「センスのある人だけが持つ才能」ではなく、「資源を絞り込む判断を繰り返す技術」として後天的に鍛えられるという点が、意外と知られていないことです。本記事では、戦略思考とロジカルシンキングとの違いから、鍛え方の基本習慣、実務で使えるフレームワーク、研修選びのポイントまで解説します。

戦略思考とは何か

戦略思考とは、目的を達成するために、限られた経営資源をどこへ集中し、どこを捨てるかを判断する思考法です。USJの経営をV字回復させたマーケターの森岡毅氏は、戦略を「目的を達成するために資源を配分するための選択のこと」と定義し、その資源として「ヒト・モノ・カネ・情報・時間・知的財産」の6つを挙げています。すべてに手を出そうとすれば資源は分散し、どの取り組みも中途半端になります。何を選び、何を捨てるかという判断そのものが戦略思考の核心です。

この思考法が注目される理由の一つは、ビジネス環境の変化速度が上がっていることです。市場ニーズや競合の動き、技術革新のスピードが上がるほど、現場の対応力だけでは追いつかなくなり、中長期の視点から打ち手を選び抜く力が組織に求められるようになります。戦略思考は、まさにこの「打ち手を選び抜く」場面で機能する考え方です。

ロジカルシンキング・クリティカルシンキングとの違い

戦略思考は、ロジカルシンキング(論理的思考)やクリティカルシンキング(批判的思考)と並んで紹介されることが多く、両者の延長のように見られがちです。しかし、それぞれが向いている問いの種類は異なります。

ロジカルシンキングは、与えられた前提から筋道を立てて結論を導く思考法です。「なぜこの問題が起きたのか」「次に何をすべきか」を整理する場面で力を発揮しますが、何を目的に据えるか自体は教えてくれません。クリティカルシンキングは、その前提や結論を「本当にそうか」と検証する思考法で、判断の精度を上げる役割を担います。

戦略思考は、この二つの土台の上に「どこに資源を集中させるか」という選択を載せる思考法です。ロジカルシンキングが「過程」を整える思考であるのに対し、戦略思考は「目的」そのものを問う思考だと整理すると分かりやすくなります。実務では、戦略思考でゴールと資源配分の方向性を定め、ロジカルシンキングとクリティカルシンキングでその精度を検証する、という組み合わせが機能します。

戦略思考が「自己流では鍛えにくい」理由

書籍やセミナーで戦略フレームワークを学んだのに、自社の課題に当てはめようとすると手が止まる——この現象は珍しくありません。理由の一つは、戦略思考が「正解を探す」思考ではなく「何を捨てるか決める」思考だからです。

多くのビジネスパーソンは、業務の中で「漏れなく対応する」ことを評価される経験を積んでいます。クレームには全件対応し、要望には可能な限り応える、という姿勢が日々の評価につながる組織も少なくありません。この習慣が染みついていると、戦略立案の場面でも無意識に「全方位で対応できる案」を選びがちになり、結果として資源が分散した計画になります。

もう一つの理由は、選択の責任に対する不安です。「この市場に集中する」と決めることは、同時に「他の市場は捨てる」と決めることでもあります。捨てた選択肢で機会損失が出た場合に責められるという恐れがあると、判断は無難で網羅的な方向へ流れやすくなります。フレームワークを知っているだけでは、この「選び、捨てる」という意思決定の練習を積めないため、実務での発動が難しいのが戦略思考の特性です。

戦略思考を鍛える3つの基本習慣

フレームワークの前に、日々の業務の中で練習できる3つの習慣があります。特別な道具を使わずとも、考え方の癖として身につけられるものです。

① 「全部やる」案を一度禁止してみる

企画やタスクの優先順位を考えるとき、まず「すべてに対応する案」を選択肢から外してみます。そのうえで、「この中で一つしか実行できないとしたら、どれを選ぶか」を自分に問い直します。この問いに答えるには、目的に対してどの選択肢が最も効果的かを比較する必要があり、結果として優先順位の根拠が明確になります。

森岡毅氏がUSJで掲げた経営回復の戦略は、この発想を体系的に実行した例として知られています。経営難の状況で全方位の改善に資金を投じるのではなく、まず家族層の取り込みに資源を集中させ、その成果で得た資金を次の投資(ハリーポッターエリアの新設)に回すという段階的な配分を行いました。すべてを同時に解決しようとしなかった点が、限られた資源での再建を可能にした要因とされています。

② 「目的」と「手段」を分けて書き出す

戦略思考が機能しない場面の多くは、手段が目的化していることに起因します。「研修を実施する」「新機能を追加する」といった手段を、いつの間にか達成すべきゴールのように扱ってしまうケースです。これを防ぐには、企画書や会議の冒頭で「この施策は何を達成するための手段か」を一文で書き出す習慣が有効です。

書き出した目的に対して、検討している手段が本当に最短ルートかどうかを問い直すと、別の手段のほうが効率的だと気づくことがあります。目的を明文化する作業自体は数分で終わりますが、議論の土台がずれていないかを確認する効果は大きく、会議の手戻りを減らすことにもつながります。

③ 自社以外の業界の戦略をケースとして読む

戦略思考のパターンは、業界をまたいで応用できることが少なくありません。普段関わらない業界の経営判断を題材として読み、「この会社はどの資源をどこに集中させたのか」「何を捨てたのか」を自分の言葉で整理する練習が有効です。

飲食チェーンの丸亀製麺は、競合の増加に対して安易な低価格競争に踏み込むのではなく、手作り感や品質という本来の強みを発信する方向に資源を集中させ、成長を取り戻したと紹介されています。自社の状況に直接当てはめられなくても、「何を強みとして選び、何を競争軸からあえて外したか」という構造を抜き出して読む練習が、戦略思考の引き出しを増やします。

戦略思考を鍛えるフレームワーク

習慣に加えて、フレームワークを使うことで分析の抜け漏れを防ぎ、判断の根拠を整理しやすくなります。実務での使用頻度が高いものを紹介します。

3C分析

顧客(Customer)・競合(Competitor)・自社(Company)の3つの視点から事業環境を整理する手法です。顧客のニーズと競合の動きを把握したうえで、自社の強みがどこで活かせるかを見極めます。情報量が多い状況で、自社の戦略の出発点を整理する際に使いやすいフレームワークです。

SWOT分析

自社の強み(Strengths)・弱み(Weaknesses)という内部要因と、機会(Opportunities)・脅威(Threats)という外部要因を整理する手法です。内部要因と外部要因を掛け合わせて検討する「クロスSWOT分析」まで行うと、「強みを機会に活かす施策」「弱みが脅威と重なる部分への対応」といった、具体的な打ち手にまで落とし込みやすくなります。

ポーターの5フォース分析

経営学者マイケル・ポーターが提示した、業界の競争構造を「既存競合」「新規参入の脅威」「代替品の脅威」「買い手の交渉力」「売り手の交渉力」の5つの力から分析する手法です。自社の業界がそもそも構造的に儲けやすいのか、儲けにくいのかを把握できるため、競争戦略を立てる前提条件の確認に向いています。

一つ補足しておくと、これらのフレームワークに共通する限界があります。いずれも状況を整理するための「地図」であり、地図を作った後にどこへ進むかを決める判断は、フレームワークの外にあります。分析結果を眺めて満足してしまうと、戦略思考の核心である「選び、捨てる」判断には到達しません。


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戦略思考の例題で「選び、捨てる」判断を練習する

戦略思考の訓練として、簡単な設問を使う方法があります。ただし、答えそのものを覚えるだけでは実務に転用できません。「自分はどの資源を、何のために、どこに集中させたか」を言語化するところまで行うことが重要です。

例題1:限られた広告予算をどこに配分するか

新商品の広告予算が限られている場合、「認知拡大」「店頭での購買促進」「リピーター向けの施策」のすべてに予算を薄く配分すると、どの効果も中途半端になりがちです。ここで問うべきは「この商品が抱える最大の壁は何か」です。認知が壁であれば認知拡大に予算を集中し、購買後の継続率が壁であればリピーター施策に集中する、という判断が戦略思考の実践になります。

例題2:人員が足りない部署にどう対応するか

「全部署に少しずつ人を増やす」という案は、一見公平に見えますが、どの部署も人手不足が解消されない結果に陥りやすい配分です。代わりに「最も事業インパクトの大きい部署はどこか」を先に特定し、そこへ重点的に人員を再配置する案を検討すると、限られた人員でも成果に直結する配分になります。

例題を考えた後は、「自分はどの選択肢を捨てたか」「捨てた理由を人に説明できるか」を振り返ることが、実務での再現性につながります。正解を当てることよりも、判断の根拠を言葉にできるかどうかが訓練の本質です。

ビジネスにおける戦略思考の事例

実際の企業がどのように資源配分の判断を行ったかを見ると、「選び、捨てる」とは具体的にどういうことかが分かりやすくなります。

USJ——段階的な資源配分で経営危機から立て直す

USJは2001年の開業時に年間1,102万人を集客しましたが、翌年以降は急減し、2009年には750万人台まで落ち込みました。2010年に着任した森岡毅氏は、限られた資金をまず「ファミリー層の取り込み」に集中させ、その成果で得た収益を次の段階である大型エリアの新設に投じる、という段階的な戦略を実行しました。すべての課題に同時に手をつけるのではなく、最初の一手を絞り込んだことが、その後の回復につながったと紹介されています。

丸亀製麺——価格競争を避け、本来の強みに資源を集中する

外食業界では値下げによる集客競争がたびたび起こりますが、丸亀製麺は競合の増加に対して低価格競争に踏み込むのではなく、手作りのうどんという本来の強みを伝える発信に資源を集中させました。短期的な価格訴求ではなく、自社が本来持つ強みに絞って発信し続けたことが、成長につながった要因として紹介されています。

共通するパターン

これらの事例に共通するのは、すべての課題に同時に向き合おうとしなかったことです。資源を絞り込む判断は、短期的には「他の課題を放置している」ように見えることもありますが、最も効果の大きい一点に資源を集中させたことが、結果として全体の回復や成長を引き出しています。戦略思考は、目立つ施策の良し悪しではなく、この資源配分の順序を決める力に表れます。

組織で戦略思考を定着させるには

個人の習慣として鍛えることと、組織の意思決定力として戦略思考を根付かせることは別の課題です。フレームワークを学ぶ研修を一度受けただけでは、日常の会議や企画の進め方が変わらないことがほとんどです。

「捨てる判断」を後押しする文化が必要

戦略思考が組織に根付かない大きな理由の一つは、「何かを捨てる」という判断が評価されにくい風土です。網羅的な対応をした人は安全に見え、絞り込んだ人はリスクを取ったように見えるため、無難な選択のほうが評価されやすくなります。マネジャーや経営層が「何を捨てたか」を会議で問う姿勢を示すことが、組織への戦略思考定着の出発点になります。

座学だけでは「分かる」止まりになりやすい

戦略思考は、フレームワークの説明を聞くだけでは「分かった気になる」段階で止まりやすい領域です。自社の実際の課題を題材に、「この資源をどこに集中させるか」をチームで議論し、選んだ理由と捨てた理由を言語化するアウトプットを繰り返すことが、実務で機能する戦略思考の習得につながります。

一度の研修で終わらせず、日常の会議や企画書のレビューの中で「これは何のための施策か」「他の選択肢を捨てた理由は何か」という問いを習慣的に使っていくことで、個人の思考パターンが変わり、やがて組織の意思決定の文化になっていきます。

ロジカルシンキング等は本で学んでいたので、自分でできているという自負がありましたが、実際に講師の方のフィードバックを受けて、まったくできていないことを痛感しました。今後の組織を担う担当者だけでなく、部下を持つ人間は、受けたほうがいい内容だと思います。― 課題解決力強化道場 受講者(製造業 経営企画室)

戦略思考トレーニングを実務で使える力に変えるなら課題解決力強化道場へ

戦略思考は、フレームワークを覚えるだけでは実務で機能しません。「何に資源を集中させ、何を捨てるか」を自分の言葉で説明できるようになるには、自社の実際の課題を題材にしながら判断とフィードバックを繰り返す場が必要です。

課題解決力強化道場は、アクセンチュア・KPMG・デロイトトーマツ・PwC出身の現役コンサルタントが直接指導する、少人数制のハンズオン型研修です。戦略思考を含む課題解決力を「知識」ではなく「使える力」として習得することに特化した設計で、累計800名超の受講者から平均満足度95.6%の評価を得ています。

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