アサーティブコミュニケーション研修|言いにくいことを伝えるDESC法と設計のコツ
「部下に注意したいけれど、関係が気まずくなるのが怖い」「上司に意見したいが、生意気だと思われたくない」。こうした迷いを抱えたまま言葉を飲み込んでいる社員は、思いのほか多いものです。実際、新入社員を対象とした調査でも、自信のある能力として「相手の意見を丁寧に聞く力」が例年上位に挙がる一方、「自分の意見を分かりやすく伝える力」は不足している能力の最多回答となっています。(出典:SMBCビジネスクラブ「2025年度 新入社員意識調査アンケート」)
聞く力はあっても、伝える力が育っていない。この非対称性が、職場のあちこちで小さなすれ違いを生んでいます。アサーティブコミュニケーション研修は、まさにこのギャップを埋めるために設計された研修です。本記事では、研修の内容や選び方、現場で実際に機能させるための工夫について、実務的な視点から解説します。

アサーティブコミュニケーションとは何か
アサーティブ(assertive)とは、直訳すると「自己主張的な」という意味の英単語です。ただし、ここでいう自己主張は、相手を押しのけてでも自分の意見を通すことではありません。相手の状況や気持ちに配慮しながら、自分の考えも率直に伝えるという、いわば「両立」を目指すコミュニケーションのあり方です。
心理学の領域では、人のコミュニケーションスタイルは大きく3つに分類されると説明されます。一つは自分の意見を一方的に押し通す攻撃型(アグレッシブ)、もう一つは自分の意見を抑え込んで相手に合わせる非主張型(ノンアサーティブ)、そして自分の意見と相手の意見の双方を尊重する調和型(アサーティブ)です。多くの日本人は、幼少期から「和を乱さない」ことを重視する教育を受けてきた背景もあり、非主張型に寄りがちだと指摘されることがあります。
なぜ今、この研修が注目されているのか
アサーティブコミュニケーションという概念自体は、1950年代のアメリカで心理療法の一環として生まれた比較的古い理論です。ではなぜ、これほど長く語られてきた考え方が、ここ数年であらためて企業研修のテーマとして注目を集めているのでしょうか。
背景の一つに、心理的安全性という概念の広がりがあります。Google社が社内の180以上のチームを分析した調査では、生産性の高いチームに共通する最も重要な因子は心理的安全性であることが明らかになりました。(出典:ストレスコープ「心理的安全性が保たれた職場環境づくりのためのコミュニケーション」)心理的安全性の高いチームでは、メンバーが対人関係のリスクを恐れずに発言できるとされ、離職率が低く、多様なアイデアをうまく活用でき、収益性が高く、効果的に働くとマネジャーから評価される機会が2倍多いという結果が示されています。
この心理的安全性を職場で実際につくり出す土台となるのが、一人ひとりのアサーションスキルです。声の大きい人の意見だけが通る組織や、逆に誰も本音を言わない組織では、いくら制度を整えても心理的安全性は育ちません。個人の伝え方が変わることで、初めてチームの空気が変わっていくという順序を、多くの人事担当者が経験的に理解し始めています。
もう一つの背景が、若手・Z世代社員の価値観の変化です。リクルートマネジメントソリューションズの新入社員意識調査によれば、働きたい職場の特徴として「お互いに助けあう」に加えて「遠慮をせずに意見を言いあえる」が調査開始以来最高値で2位となっており、両者を同時に選ぶ回答者の割合も高いことが分かっています。助け合いたい、でも遠慮したくない。この二つの欲求は一見矛盾するようですが、アサーティブなコミュニケーションが浸透した職場であれば、両立は十分に可能です。
“「助けあう」と「遠慮をせずに言う」の両立を求める傾向がうかがえた。この2つの特徴をあわせると、新人・若手社員は心理的安全性が担保された環境を求めていると言える― リクルートマネジメントソリューションズ「新入社員意識調査」考察より
研修で扱われる主な内容と代表的な手法

アサーティブコミュニケーション研修のプログラム構成は提供会社によって幅がありますが、骨格となる部分にはかなりの共通点があります。ここでは、多くの研修で共通して扱われる要素を整理します。
3つのコミュニケーションタイプを知る
研修の導入部分では、たいてい先ほど紹介した攻撃型・非主張型・調和型の3タイプについて、受講者自身の傾向を自己診断する時間が設けられます。これは単なる知識のインプットではなく、「自分は普段、どちらに偏りやすいのか」を自覚してもらうためのステップです。
ここで重要なのは、自分のタイプを知ったからといってすぐに行動が変わるわけではないという点です。むしろ多くの受講者は、診断結果を見て「やはり自分は言いたいことを飲み込みがちだ」と再確認するだけで終わってしまいます。効果を出している研修に共通するのは、自己診断の後に必ず「なぜそうなるのか」という背景の掘り下げを行っていることです。育ってきた環境、これまでの成功・失敗体験、組織の文化など、行動パターンの根っこにある要因まで踏み込んで扱うかどうかで、研修後の定着度は大きく変わってきます。
DESC法という実践フレームワーク
アサーティブな伝え方を体系立てて実践するための代表的な手法が、DESC法と呼ばれるフレームワークです。Describe(描写)・Explain(説明)・Specify(提案)・Choose(選択)の頭文字からなる、4つの段階に分けて自分の考えを伝えるコミュニケーションスキルで、アメリカの心理学者ゴードン・バウアーらによって提唱されたとされています。
それぞれの段階で意識すべきポイントは次の通りです。
- ✓Describe(描写):感情や解釈を交えず、起きている事実だけを客観的に伝える
- ✓Explain(説明):事実に対して自分がどう感じているかを、相手を責めない言葉で表現する
- ✓Specify(提案):命令ではなく提案の形で、実現可能な行動を具体的に示す
- ✓Choose(選択):提案が受け入れられた場合とそうでない場合、双方の選択肢を用意しておく
言葉にすると単純に見えるかもしれませんが、実際にやってみると最初のDescribeの段階でつまずく受講者が非常に多いというのが、研修の現場でよく語られる話です。「最近、報告が遅い」と伝えたつもりが、実は「最近、報告が遅くて困る」という主観混じりの表現になっている。この違いに気づけるかどうかが、DESC法を使いこなせるかどうかの分かれ目になります。事実と感情を切り分ける訓練は、頭で理解するのと実際に言葉にできるのとでは、かなりの距離があるものです。
ロールプレイングとフィードバック
座学でフレームワークを学んだだけでは、現場での言動はほとんど変わりません。多くの研修では、この後に必ずロールプレイングの時間が組み込まれます。「部下に注意する」「上司に無理な依頼を断る」「年上の部下に指示を出す」など、受講者が実際の業務で直面しがちな場面を設定し、ペアやグループで演じ合いながら、その場でフィードバックを受け取る形式です。
ここで研修の質を分けるのが、フィードバックの粒度です。「良かったです」「もう少し工夫が必要ですね」といった抽象的な感想で終わる研修と、「Describeの部分で、事実に『いつも』という主観的な副詞が混ざっていました」というように具体的な言葉のレベルまで踏み込んで指摘してくれる研修とでは、受講後の実践力に明確な差が出ます。研修会社を選定する際は、ロールプレイングの有無だけでなく、フィードバックの解像度にも注目しておくとよいでしょう。

対象者別に見る研修ニーズの違い
アサーティブコミュニケーション研修は、階層によって求められる内容が大きく異なります。同じフレームワークを使っていても、誰に向けて設計するかで研修の重心は変わってきます。
新入社員・若手社員向け
若手層に対しては、「言いにくいことを言う」よりも先に、「そもそも意見を言ってよいのだと知る」ことから始める必要があるケースが少なくありません。東京商工会議所の調査では、社会人生活を送るうえで不安に感じることとして「上司・先輩・同僚とうまくやっていけるか」が上位に挙がっており、対人関係への不安の大きさがうかがえます。(出典:東京商工会議所「2024年度 新入社員意識調査」)
若手向けの研修では、断る・質問する・意見を言うといった日常的な場面を題材に、小さな成功体験を積ませることが重視されます。いきなり上司への進言のような難易度の高い場面を扱うのではなく、まずは同僚同士の依頼のやり取りなど、心理的ハードルの低い場面から練習を積み上げていく設計が効果的だとされています。
管理職・リーダー層向け
管理職向けの研修では、逆の課題が浮かび上がります。部下との関係が気まずくなることを恐れて、本来伝えるべき指摘や注意を先送りにしてしまう管理職は決して少なくありません。特に、年上の部下や世代の異なるメンバーを持つ管理職からは、「どう指摘すればハラスメントと受け取られずに済むのか分からない」という悩みがよく聞かれます。
この階層向けの研修では、DESC法に加えて、フィードバックの場面設計そのものを扱うことが多くなります。いつ、どこで、どのタイミングで伝えるかという「場」の設計は、伝え方そのものと同じくらい成果を左右する要素です。1対1の個室で伝えるべき内容を、他のメンバーがいる場で口にしてしまっただけで、アサーティブな内容であっても相手には攻撃的に受け取られてしまうことがあります。
医療・介護など対人業務が多い職種向け
看護や介護の現場でも、アサーティブコミュニケーションへの関心は高まっています。患者やその家族、多職種のスタッフとの間で、限られた時間の中で正確かつ配慮のある意思疎通が求められる職場だからこそ、感情的にならずに事実と意見を切り分けて伝える技術への需要が強いのだと考えられます。医療現場向けの研修では、一般的なビジネス場面の例に加えて、申し送りやインシデント報告など、業界特有の場面を題材にしたケーススタディが組み込まれることが一般的です。
研修を選ぶ際の視点
同じ「アサーティブコミュニケーション研修」という名称でも、対象階層や業種によって扱う場面設定はまったく異なります。自社の課題がどの階層に集中しているのかを事前に整理したうえで、その課題に合わせたケーススタディを用意してくれる研修会社を選ぶことが、成果を左右する分かれ目になります。
研修が現場で活きない、よくある落とし穴

アサーティブコミュニケーション研修は、受講直後のアンケートでは満足度が高く出やすい研修の一つだといわれます。ロールプレイングを通じて「話せた」という手応えを得やすく、その場の達成感が満足度に直結しやすいためです。しかし、その手応えが実際の職場での行動変化につながるかどうかは、また別の問題です。
では、なぜ「研修では良い感触があったのに、現場では元通りになってしまう」ということが起きるのでしょうか。ここには、いくつかの共通した原因があります。
一般論のケースと自社の現実との距離
多くの研修プログラムでは、汎用性を高めるために、業種や職種を問わない一般的な場面設定が使われます。「部下に仕事のミスを指摘する」「上司に納期の相談をする」といった例は分かりやすい反面、受講者にとっては「自分の職場とは事情が違う」という感覚を拭えないまま終わってしまうことがあります。特に、自社特有の組織構造や力関係、これまでの経緯を踏まえた微妙なニュアンスまでは、汎用的なケーススタディではどうしても拾いきれません。
一度きりのフィードバックで終わる設計
もう一つの大きな要因が、フィードバックの回数です。多くの研修は1日から数日で完結する形式で提供されており、その場でロールプレイングを行い、講師や他の受講者からフィードバックを受け取ったら、そこで研修そのものは終了します。しかし、コミュニケーションスタイルの変化は、一度気づいただけで定着するものではありません。頭では分かっていても、実際の場面になると以前の癖が出てしまうというのは、多くの受講者が経験することです。
ここで重要になるのが、研修後にもう一度振り返る機会があるかどうかです。学んだ直後の理解度と、数週間後に実務で使いこなせているかどうかの間には、想像以上の差が生まれます。この差を「分かる」と「できる」のギャップと呼ぶことがありますが、多くの研修会社はこのギャップを埋める仕組みを持っていません。
研修企画者と受講者の目線がずれている
人事担当者が研修を企画する際、「アサーティブなコミュニケーションを身につけてほしい」という目的は明確でも、受講者側の日々の業務における具体的な困りごとまで細かく把握できていないケースがあります。この場合、研修内容は一般的なものにとどまり、受講者は「自分ごと」として捉えにくくなります。研修企画の初期段階で、現場の管理職やキーパーソンへのヒアリングを丁寧に行っているかどうかが、研修の実効性を大きく左右する要因になります。
「分かる」を「できる」に変えるための設計の工夫

ここまで見てきた課題を踏まえると、研修選定において重視すべきポイントが見えてきます。単発の座学で終わらせず、実務との接続を意識した設計になっているかどうかです。
具体的には、次のような要素が揃っている研修は、行動変容につながりやすい傾向があります。
もう一つ見落とされがちなのが、少人数制であるかどうかという点です。何十人もの受講者を一度に集める研修では、ロールプレイングの回数も、講師からの個別フィードバックの密度も、どうしても薄くなってしまいます。1クラスあたりの人数が10名以内程度に絞られている研修であれば、一人ひとりの発言の癖や改善点まで講師が把握しやすく、その場で的確な指摘を受けられる可能性が高まります。
実際、こうした設計思想を持つ研修プログラムの一つに、株式会社Bloomsが運営する課題解決力強化道場があります。少人数制・ハンズオン・超実践型をコンセプトに、外資系コンサルティングファーム出身の現役コンサルタントが講師を務め、自社の実務課題そのものを題材にしたカリキュラムを提供しているのが特徴です。毎回の個別フィードバックシートと、研修企画者との振り返りミーティングを組み合わせることで、学んだ内容が現場での行動に結びつくところまで伴走する設計になっています。
アサーティブなコミュニケーションに限らず、「研修では理解できたのに、いざ実践しようとすると以前の癖に戻ってしまう」という悩みを抱えている企業にとっては、こうした継続的なフィードバック構造を持つ研修形式が一つの選択肢になるはずです。
「学んで終わり」にしない研修を
課題解決力強化道場は、
外資系コンサル出身の現役プレイヤーが直接指導するハンズオン型研修です。
知識習得で終わらない、行動が変わる研修をご提供いたします。
少人数制 × ハンズオン × 超実践型
研修導入前に整理しておきたいこと

研修会社を選ぶ前に、社内で整理しておくべきことがいくつかあります。ここを曖昧にしたまま研修を発注してしまうと、内容がどれだけ優れていても効果を実感しにくくなってしまいます。
誰の、どんな困りごとを解決したいのか
「コミュニケーションを改善したい」という漠然とした課題感のまま研修を探し始めると、対象者も内容もぼやけたまま進んでしまいがちです。管理職が部下への指摘をためらっているのか、それとも若手が上司に意見を言えずにいるのか。あるいは部署間の連携で摩擦が生じているのか。困りごとの所在によって、研修で扱うべき場面設定はまったく異なります。
研修後、誰がフォローするのか
研修は導入して終わりではありません。研修後、現場で実践する機会をどう作るか、うまくいかなかった場合に誰が相談に乗るのかという体制まで、事前に考えておく必要があります。研修担当者自身が定期的に受講者と対話する時間を確保できるのか、それとも外部の研修会社に振り返りの伴走まで依頼するのか。この判断は、投じる予算とも直結する重要な選択です。
効果測定の指標をどう置くか
アサーティブなコミュニケーション力は、売上のように直接数値化できる指標ではありません。だからこそ、事前に「何をもって効果があったとみなすか」を決めておかないと、研修の評価そのものが曖昧になってしまいます。1on1の実施率や頻度、離職率の推移、従業員サーベイでの心理的安全性に関する設問の変化など、間接的でも継続的に追える指標を一つは用意しておくとよいでしょう。
組織の対話力を鍛えるなら課題解決力強化道場へ
アサーティブコミュニケーション研修は、DESC法のようなフレームワークを学ぶこと自体が目的ではありません。学んだ型を実際の職場でどこまで使いこなせるようになるかが本当の成果です。そのためには、座学とロールプレイングだけで終わらない、継続的なフィードバックの仕組みが欠かせません。
課題解決力強化道場は、少人数制・ハンズオン・超実践型を掲げ、自社の実務課題そのものを題材にした研修設計と、毎回の個別フィードバックによって、知識を実践に橋渡しする仕組みを備えています。組織のコミュニケーションのあり方そのものを見直したいと考えている人事・経営企画のご担当者は、まず現在の課題を整理するところから、一度ご相談いただくのも一つの方法です。
貴社の課題に最適な研修をご提案します
・管理職のスキルにバラつきがある
・研修が現場で活きない
・自走する人材が育たない
心当たりがあれば、まずご相談ください。
貴社の状況に最適なカリキュラムをご提案いたします。
※ご相談・お見積もりは無料です