ビジネスモデルキャンバスのテンプレート|9要素の書き方と記入例
無料のテンプレートをダウンロードしたものの、いざ9つの枠を前にすると手が止まってしまう、そんな経験をお持ちの方は少なくないはずです。枠を埋めること自体は、それほど難しくありません。本当の難所は、埋めた内容が事業の実態と噛み合い、次の一手が見えてくる状態まで持っていくことにあります。
この記事では、Excel・パワーポイント・PDF・Wordといった形式別のテンプレートの選び方から、9つの要素それぞれに何をどう書くのか、書き込む順番、実在企業の記入例、そして事業支援の現場でよく出会う「埋めても機能しないキャンバス」に共通する落とし穴までを一気に整理します。テンプレートを単なる配置図で終わらせず、意思決定に使える一枚へと育てるための視点をお届けします。
ビジネスモデルキャンバスとは、事業の全体像を1枚で描く設計図です

ビジネスモデルキャンバスは、事業が「誰に」「どんな価値を」「どうやって届け」「どこで収益を得るのか」を、9つの要素に分けて1枚の図に描き出すフレームワークです。文章にすると数ページに及ぶ事業の骨格を、A3用紙1枚ほどの粒度に圧縮できる点に、いちばんの価値があります。
考案したのは、スイスの経営学者アレックス・オスターワルダー氏と、ローザンヌ大学教授のイヴ・ピニュール氏です。のちにビジネスモデルキャンバスと呼ばれる9つの構成要素は、オスターワルダー氏の博士論文(2005年前後)で最初に提案されました。その後、2010年に刊行された共著『Business Model Generation(邦訳『ビジネスモデル・ジェネレーション』翔泳社、2012年)』によって広く知られるようになります。同書は世界で100万部を超え、GEやネスレ、インテル、コカ・コーラといった企業でも採用されてきました。
“ ビジネスモデルとは、組織が価値をどう生み出し、顧客にどう届け、その対価をどう得るのか、という一連の論理を描いたものです。 ― オスターワルダー&ピニュール『Business Model Generation』の定義をもとに要約
なぜここまで普及したのでしょうか。理由は、事業を構成する要素どうしの「つながり」が見える点にあります。損益計算書は結果としての数字を教えてくれますが、その数字がどんな仕組みから生まれているのかまでは語ってくれません。ビジネスモデルキャンバスは、価値提案と顧客、収益とコストを横並びに置くことで、「どこを変えれば、どこに効くのか」を一望できる状態をつくります。ここが、箇条書きの事業メモとの決定的な違いです。
リーンキャンバスとの違いは「検証向き」か「全体像向き」か
よく似たフレームワークに、リーンキャンバスがあります。こちらは起業家のアッシュ・マウリャ氏が、スタートアップ向けにビジネスモデルキャンバスを改変したものです。「課題」「解決策」といった要素を持ち、まだ顧客もいない不確実な新規事業を、素早く検証していくのに向いています。
一方のビジネスモデルキャンバスは、パートナーやリソースなど供給側の要素まで含む構成です。そのため、すでに動いている事業の分析や、部門をまたいだ共通認識づくりに使いやすいという特長があります。どちらが優れているという話ではありません。ゼロから顧客を探す局面ならリーンキャンバス、事業の全体像を関係者で共有したい局面ならビジネスモデルキャンバス、というように目的で選ぶとよいでしょう。
ビジネスモデルキャンバスの無料テンプレート(Excel・パワーポイント・PDF・Word)

テンプレートは、Excel、パワーポイント(ppt)、PDF、Wordなど、さまざまな形式で無料配布されています。ただ、どれをダウンロードしても同じというわけではありません。形式には向き不向きがあり、使う場面に合わせて選ぶと、作成後の作業が驚くほど楽になります。目的別の目安を整理しておきます。
形式ごとの向き・不向き
Excel(エクセル/スプレッドシート)は、項目を何度も出し入れしたり、複数の案を横に並べて比較したいときに力を発揮します。セル単位で編集でき、コメント機能を使えば議論の履歴も残せます。パワーポイント(ppt)は、経営会議や提案の場でそのまま見せる前提なら第一候補です。付箋を貼る感覚でテキストボックスを動かせ、完成後はプレゼン資料へ流用しやすい点も便利でしょう。
PDFは、印刷して手書きで書き込みたいときや、ワークショップで壁に貼って議論したいときに向いています。A3で刷ると、ちょうど付箋を貼れる大きさになります。Wordは、各要素の背景や根拠を長めの文章で残したい場合に選ぶとよい形式です。一覧性はやや落ちますが、後から読み返す資料としては読みやすくまとまります。
迷ったときの選び方
1人で素早く考えるならExcel、チームで議論するならPDFを印刷、そのまま提案に使うならパワーポイント、と割り切ると選定に迷いません。まず原型に触れたい場合は、オスターワルダー氏が共同創業したStrategyzerが配布する公式テンプレートから入るのが確実です。
テンプレートの基本レイアウト
どの形式を選んでも、枠の配置には共通のルールがあります。中央に価値提案を置き、その右側に顧客まわり、左側に自社の活動、下段にお金の要素を並べる形です。この配置には意味があります。右に行くほど市場・顧客に近く、左に行くほど自社の内部に近い、という並びになっているのです。
| パートナー (KP) 協力してくれる社外の相手 |
主要活動 (KA) |
価値提案 (VP) 顧客に届けるうれしさ |
顧客との関係 (CR) |
顧客セグメント (CS) 価値を届ける相手 |
| 主要リソース (KR) |
チャネル (CH) |
|||
| コスト構造(C$) 事業にかかる費用 |
収益の流れ(R$) 事業が生む収益 |
|||
この骨格が頭に入っていれば、どの配布テンプレートを開いても迷いません。配置の意味を理解しないまま枠だけ埋めると、要素の関係を見落としがちになります。まずはレイアウトの狙いから押さえておきましょう。
テンプレートに書き込む9つの構成要素と書き方

ここからは、9つの要素それぞれに何を書くのかを見ていきます。単なる説明ではなく、実際に手を動かすとつまずきやすい点も添えていきます。全体を「右側(市場・顧客)」「左側(自社の活動)」「下段(お金)」の3グループで捉えると、頭の中が整理されやすくなります。
①顧客セグメント(CS)
誰に価値を届けるのかを定義する枠です。ここでのつまずきは、「30代女性」のように属性でくくって満足してしまうこと。同じ30代女性でも、時短を最優先する共働き層と、こだわりに手間もお金もかける層とでは、刺さる価値がまったく違います。属性ではなく「どんな状況で、何に困っている人か」まで踏み込むと、後に続く枠の解像度が一段上がります。
②価値提案(VP)
顧客の悩みをどう解消し、どんなうれしさを届けるのかを書きます。コツは、機能そのもの(容量が大きい、処理が速い)ではなく、機能がもたらす結果(買い替えの手間から解放される、残業が減る)で表現することです。顧客が本当に欲しいのは製品そのものではなく、製品を使って手に入る変化のほう、と考えると言葉が具体的になります。
③チャネル(CH)
価値を顧客に届ける経路です。認知してもらう、購入してもらう、価値を提供する、購入後を支える、という一連の流れで分けて考えると、抜け漏れが減ります。ここで起きやすい混同が、チャネル(届ける経路)と広告などの販促施策を一緒くたにしてしまうことです。経路と施策は分けて捉えると、後で改善点を見つけやすくなります。
④顧客との関係(CR)
顧客とどんな関係を築き、どう維持するのかを書く枠です。新規を獲得したいのか、離脱を防ぎたいのか、単価を上げたいのかで、取るべき関係のかたちは変わります。継続課金型なら解約率、店舗ならリピート率というように、関係性は必ず何らかの指標とセットで考えると、抽象論に流れずに済みます。
⑤収益の流れ(RS)
何によってお金を得るのかを書きます。売り切りなのか、継続課金なのか、広告なのか、手数料なのか。ここでの勘所は、1回で終わる収益と、繰り返し発生する収益を分けて書くことです。両者の比率が見えると、事業がどれだけ安定した収入源を持っているかが浮かび上がってきます。
⑥主要リソース(KR)
価値提案を成り立たせるために欠かせない資源です。ヒト・モノ・カネはもちろん、ブランドや特許、データ、顧客基盤といった無形の資産も忘れないようにしたい要素です。とりわけ、競合が簡単には真似できない資源ほど、事業を守る堀(参入障壁)になります。目に見える設備だけを書いて終えないことが大切です。
⑦主要活動(KA)
価値を生み出して届けるために、日々行う中心的な活動を書きます。製造なのか、開発なのか、仕入れと販売なのか、プラットフォームの運営なのか。リソースが「持っているもの」だとすれば、主要活動は「やっていること」だと捉えると区別しやすくなります。あれもこれもと並べず、事業の要になる活動だけに絞るのがポイントです。
⑧パートナー(KP)
自社だけでは完結しない部分を補う、社外の協力先です。仕入先、業務委託先、販売代理、アライアンス先などが入ります。「なぜ外部に任せるのか」を、コスト削減・リスク低減・自社にない資源の獲得のどれに当たるかで整理すると、その提携の狙いがはっきりします。惰性で続いている取引ほど、この問いで見直す価値があります。
⑨コスト構造(CS)
事業を回すのにかかる費用の全体像です。固定費と変動費を分け、どの活動やリソースが大きな費用を生んでいるかを可視化します。作業を進めると、自社が安さで勝負するコスト先行型なのか、価値で勝負する価値先行型なのか、どちらに寄っているかも見えてきます。数字を精緻に積む前に、費用の大きな塊がどこにあるかを掴むことから始めるとよいでしょう。
テンプレートを埋める順番(どの要素から書き始めるか)

どの枠から埋めても間違いではありません。ただ、慣れないうちは順番を決めておくと、手が止まりにくくなります。おすすめは、顧客に近い右側から始めて、自社の活動側である左側へ進み、お金の枠を最後に置く流れです。具体的には次のとおりです。
- 01顧客セグメントと価値提案(誰に、何を、をまず固める)
- 02チャネルと顧客との関係(どう届け、どうつながるか)
- 03収益の流れ(顧客側から、いくら得られるかを見積もる)
- 04主要リソース・主要活動・パートナー(提供を支える体制)
- 05コスト構造(最後に、体制にかかる費用を積む)
この順番には理由があります。顧客セグメントと価値提案こそが、事業の出発点だからです。ここが曖昧なまま先へ進むと、後続の枠すべてがぼやけてしまいます。
収益とコストを最後に回すのにも狙いがあります。お金は、いわば「仕組みが正しく回った結果」として現れるものです。先にお金の話から入ると、都合のよい数字に引っ張られ、肝心の価値提案が甘くなりがちです。だからこそ、まず「誰に、どんな価値を」を練り上げ、それを支える体制を組み、費用は最後に積む、という順で考えると筋の通ったキャンバスになります。
記入例|ネスプレッソで読み解くビジネスモデルキャンバス

抽象的な説明だけでは、なかなか腹落ちしません。そこで、実在の事例で1枚を読み解いてみます。取り上げるのは、原典『ビジネスモデル・ジェネレーション』でも紹介される、ネスレのネスプレッソです。専用のコーヒーマシンと専用カプセルを組み合わせた、いわゆる消耗品モデルの代表例として知られています。
| 要素 | 記入内容の例 |
| 顧客セグメント | 自宅で手軽に本格的なコーヒーを楽しみたい、高所得の個人世帯 |
| 価値提案 | ボタン一つで、おしゃれに、店の味を自宅で再現できる体験 |
| チャネル | マシンは家電量販店など小売、カプセルは会員向けの直接販売(オンライン・宅配) |
| 顧客との関係 | 専用カプセルによる高いスイッチングコスト、会員クラブ、ブランド |
| 収益の流れ | マシン本体(1回のみ)+利益率の高い専用カプセル(継続的) |
| 主要リソース | ブランド、専用カプセルの製造技術・特許 |
| 主要活動 | マシンの企画、カプセルの製造・販売、マーケティング |
| パートナー | マシンを製造する家電メーカー、小売の販売網 |
| コスト構造 | マシンの製造費、カプセルの製造費、広告宣伝費 |
このキャンバスの妙は、収益の流れの二重構造にあります。マシン本体は1回きりの購入ですが、利益率の高い専用カプセルは、使い続ける限り繰り返し売れ続けます。しかも「専用」という設計が、顧客との関係の欄にある高いスイッチングコストを生み、他社への乗り換えを鈍らせているのです。
興味深いのは、この事業が最初からうまくいったわけではない点です。当初は法人向けに売り出したものの需要が伸びず、高所得の個人世帯へ顧客セグメントを切り替えたことで大きく伸びた経緯が知られています。つまり、たった1つの枠を書き換えたことが、他の枠の意味まで変えてしまったわけです。1枚の中の要素が連動して動く、この読み解きこそが、キャンバスを使う醍醐味だといえるでしょう。
テンプレートを埋めても機能しないときによくある落とし穴

テンプレートを一通り埋めたのに、なぜか議論が深まらない。そうした声は、事業支援の現場でよく耳にします。多くの場合、原因はテンプレートではなく、埋め方の側にあります。つまずきやすいパターンを挙げていきます。
「単語のリスト」で満足してしまう。各枠に単語を並べて埋め切ると、作業した気持ちにはなります。けれども、キャンバスの価値は枠と枠の関係にあります。埋めた後に「この価値提案は、どのリソースとどの活動で支えられているのか」を線でたどる工程を挟まないと、ただの一覧表で終わってしまいます。
価値提案が「顧客の言葉」になっていない。高品質、高機能、豊富な実績。こうした自社が言いたいことを並べても、顧客が感じるうれしさには翻訳できていません。顧客が口にするであろう言葉で書き直せているか、一度点検してみる価値があります。
「全員が顧客」になっている。顧客セグメントを広げすぎると、価値提案がぼやけ、どの枠も当たり障りのない総花的な内容に流れます。まず1つの中心的な相手に絞り、その人に深く刺さる一枚を描いてから広げるほうが、結果的に多くの顧客に届きます。
現在と未来が混ざっている。今のモデルを描いているのか、目指す姿を描いているのかが混在すると、議論が噛み合いません。まず現状を1枚描き、変えたい未来をもう1枚に描くと、両者の差分が課題としてくっきり見えてきます。
ビジネスモデルキャンバスのテンプレートに関するよくある質問

テンプレートは無料で使えますか
多くのテンプレートが無料で配布されています。オスターワルダー氏が共同創業したStrategyzerも、公式テンプレートを無料で公開しています。形式はExcel、パワーポイント、PDF、Wordなど幅広く揃っているので、用途に合わせて選ぶとよいでしょう。
Excelとパワーポイントのどちらがおすすめですか
1人で素早く考えたり、複数案を並べて比較したりするならExcelが向いています。会議で見せたり、そのまま提案資料に使いたいならパワーポイントが便利です。どちらか迷う場合は、最終的に誰に見せる一枚なのかを基準に選ぶと決めやすくなります。
スタートアップでも既存企業でも使えますか
どちらでも使えます。ただし、まだ顧客がおらず不確実性が高い新規事業では、課題と解決策を検証しやすいリーンキャンバスを併用するのも一手です。すでに動いている事業の分析や、社内の共通認識づくりには、ビジネスモデルキャンバスが力を発揮します。
どのくらいの頻度で見直すべきですか
決まった周期はありません。目安になるのは、新しい商品やサービスを出したとき、収益の構造が変わったとき、競合や市場に大きな動きがあったときです。事業環境は絶えず動くので、節目ごとに描き直し、現状とのズレを確認する習慣を持つとよいでしょう。
事業を1枚で描き切る力を鍛えるなら課題解決力強化道場

ビジネスモデルキャンバスの枠を埋めること自体は、テンプレートさえあれば誰にでもできます。難所はその先です。顧客の状況を的確に捉え、価値提案から収益までを一本の筋で通し、描いた仮説を検証しながら磨き込む。この思考の部分は、手法を知っているだけでは越えられません。自社の課題を題材に手を動かし、フィードバックを受けながら身につけていくのが、いちばんの近道です。
課題解決力強化道場は、外資系コンサルティングファーム出身の現役コンサルタントが講師を務める、少人数制・ハンズオン・超実践型の人材育成プログラムです。一般的な座学研修とは異なり、自社の実務課題そのものを題材に、受講者自身が答えを出していく構造になっています。ロジックツリーや課題整理といった手法を学びながら、毎回の個別フィードバックによって「分かる」と「できる」の差を埋めていきます。
自社の課題整理や事業構想を、研修を通じて前へ進めたいとお考えでしたら、まずは資料をご覧いただくか、お気軽にお問い合わせください。貴社の状況をうかがったうえで、最適なカリキュラムをご提案します。
貴社の課題に最適な研修をご提案します
・管理職のスキルにバラつきがある
・研修が現場で活きない
・自走する人材が育たない
心当たりがあれば、まずご相談ください。
貴社の状況に最適なカリキュラムをご提案いたします。
※ご相談・お見積もりは無料です