コラム

思考力

経営フレームワークSTPとは|戦略に落とし込む手順と企業事例

「STPはマーケティングの手法」——多くの解説記事はそう説明しています。確かにその通りなのですが、経営の現場でSTPを使いこなしている方ほど、この枠組みを「誰に、何を、どう届けるか」という事業判断そのものとして捉えているものです。市場を切り分け、狙う相手を選び、自社の立ち位置を定める。この一連の流れは、個々の施策より前段にある経営の意思決定に他なりません。

本記事では、STPを経営フレームワークとして捉え直し、3つのステップの進め方から関連フレームワークとの使い分け、実在企業の事例、そして多くの企業がつまずくポイントまでを整理します。「STPという言葉は知っているが、自社の戦略にどう落とし込めばよいか分からない」という方にこそ読んでいただきたい内容です。

経営フレームワークとしてのSTPとは

STPとは、Segmentation(セグメンテーション)Targeting(ターゲティング)Positioning(ポジショニング)という3つの英単語の頭文字を並べたフレームワークです。市場を細かく分け、その中から自社が狙うべき領域を選び、競合との違いが伝わる立ち位置を決める。この順序で考えを進めることで、限られた経営資源をどこに集中させるかが定まります。

もともとは市場細分化という考え方が起点になっています。1950年代にウェンデル・スミスが市場を均質な塊ではなく異なるニーズの集合として捉え直し、その後フィリップ・コトラーが戦略立案の型として体系化しました。マーケティングの教科書に必ず登場する古典的な枠組みでありながら、いまなお使われ続けているのには理由があります。

ここで押さえておきたいのは、STPの本質が「選ぶこと」であると同時に「捨てること」でもあるという点です。ターゲティングで狙う市場を決めるとは、裏を返せば狙わない市場を明確にする行為でもあります。すべての顧客に応えようとすれば、メッセージは曖昧になり、資源は分散し、結局どの層にも刺さらないという事態を招きます。経営層がSTPを扱うべきなのは、まさにこの「何をやらないか」を決める判断が、事業の方向性を左右するからです。

広告のクリエイティブや販促の設計は、STPで方向が定まった後の話です。つまりSTPはマーケティング施策の上流にある、経営の意思決定を支える枠組みだと捉えると、その役割がはっきりします。

STPが経営にもたらす3つの視点

STPを一通り行うと、経営判断の材料として何が手に入るのでしょうか。ここでは実務で効いてくる3つの視点を挙げます。

合わせて読みたい、実践のヒントはこちら。

ナレッジ

受け身型組織を変える-陥りがちな罠に学ぶ、社員が自ら動き出す“経営の仕組み”のつくり方-

「事業は伸びているのに、なぜか自分の手が離せない」。社員が指示待ちになる“受け身型組織”は、実は経営やマネジメントの設計の問題です。陥りがちな3つの罠をひもとき、社員が自ら動き出す「経営の仕組み化」の3要素を、現場の実例とともに解説します。

詳しく見る

顧客ニーズの分布が見えてくる

市場を切り分ける作業を通じて、どの層にどんなニーズが眠っているのかが可視化されます。「なんとなく若い人向け」といった漠然とした認識が、年齢・地域・価値観・購買行動といった軸で整理されることで、これまで見過ごしていた需要のかたまりに気づくことがあります。逆に、社内で当然視されていたターゲット像が、実は思い込みだったと判明する場合もあるでしょう。

自社の強みが相対的に定まる

強みは単独では決まりません。誰と比べて、どの市場で優位なのかという相対的な位置づけの中で初めて意味を持ちます。ターゲットを絞り、その市場で競合と並べて見たとき、自社が本当に選ばれる理由は何なのか。この問いに答えようとするプロセスが、抽象的だった「わが社の強み」に輪郭を与えてくれます。

意思決定の判断軸が共有される

ここが経営フレームワークとしてのSTPの見逃されがちな価値です。STPで「狙う市場」と「立ち位置」が言語化されると、それが社内共通の判断軸になります。新しい施策を検討するとき、「それは我々のターゲットに響くのか」「我々のポジショニングと矛盾しないか」という物差しで議論できるようになる。個々の担当者の勘や声の大きさで方針が揺れる状態から抜け出す土台になるのです。

STPは「分析して終わり」の作業ではなく、その後のあらゆる判断を貫く軸を組織にインストールする行為だと捉えると、経営における位置づけが明確になります。

STPの進め方——3つのステップ

ここからは実際の進め方を見ていきます。基本の流れはSegmentation → Targeting → Positioningの順ですが、後述するように厳密な一方通行ではありません。まずは各ステップで何を考えるのかを押さえましょう。

  1. 01セグメンテーション:市場を意味のある単位に切り分ける
  2. 02ターゲティング:切り分けた中から狙う市場を選ぶ
  3. 03ポジショニング:選んだ市場で自社の立ち位置を定める

セグメンテーション(市場を切り分ける)

最初のステップは、市場を似たニーズを持つグループに分ける作業です。分ける切り口には、いくつか代表的な変数があります。

地理的変数は地域・都市規模・気候など、人口統計的変数は年齢・性別・所得・職業など、心理的変数はライフスタイルや価値観、行動的変数は購買頻度やブランドへの態度を指します。BtoBであれば業種・企業規模・意思決定プロセスといった軸も加わります。

ここで多くの人が陥る落とし穴があります。切り分けること自体が目的になり、細かく分けすぎて収拾がつかなくなるパターンです。大切なのは「その切り口で分けると、打ち手が変わるのか」という問いを持ち続けること。分けても施策が同じになるなら、その分類には実務的な意味がありません。分類の粒度は、次のターゲティングで判断ができる程度に留めるのが実践的な感覚です。

ターゲティング(狙う市場を選ぶ)

次に、切り分けたセグメントの中から、自社が経営資源を投じる相手を選びます。ここで役立つのが6Rという評価の視点です。市場規模(Realistic Scale)、成長性(Rate of Growth)、競合状況(Rival)、到達可能性(Reach)、優先順位や波及効果(Rank/Ripple Effect)、そして測定可能性(Response)といった観点から、各セグメントの魅力度を見比べます。

ただし、魅力的に見える大きな市場が、必ずしも自社にとっての正解とは限りません。市場が大きいということは、それだけ強力な競合がひしめいている可能性が高いということでもあります。むしろ、規模はそこそこでも競合が手薄で、自社の強みが効きやすい市場のほうが、勝ち筋を描きやすい場合があります。「大きな池の小魚になるか、小さな池の大魚になるか」という古くからの問いは、ターゲティングの本質を突いています。

狙い方には、単一の市場に集中する型、複数の市場それぞれに合わせる型、市場を分けずに全体へ届ける型があります。中小企業や新規参入であれば、資源を一点に集める集中型が有効に働くことが多いでしょう。ここでも「どこを狙うか」と同じ重みで「どこを狙わないか」を決めることが、後の判断のブレを防ぎます。

ポジショニング(立ち位置を定める)

最後のステップは、選んだ市場の中で、顧客の頭の中に自社をどう位置づけるかを決める作業です。ここでよく使われるのがポジショニングマップです。縦軸と横軸に顧客が重視する2つの評価軸を置き、自社と競合をプロット(配置)して、空いている領域や自社が優位に立てる領域を探します。

軸の選び方が成否を分ける

マップの軸には、顧客が購買を決める際に本当に気にする要素を選ぶ必要があります。作り手にとって都合のよい軸を選び、自社が優位に見えるマップを描いても、それは自己満足にすぎません。「安さ」と「高級感」のように相関の強い2軸を並べても意味のある差は見えないため、独立した2軸を選ぶことが肝心です。

ポジショニングは「差別化」とよく混同されますが、両者は少し違います。差別化が競合との機能的・具体的な違いを指すのに対し、ポジショニングはその違いを顧客の認識の中にどう定着させるかという、より上位の概念です。優れた機能を持っていても、それが顧客の頭の中で「この会社はこういう存在だ」と結びついていなければ、選ばれる理由にはなりません。

STPを行うタイミングと関連フレームワーク

STPは単体で完結するものではなく、他のフレームワークと組み合わせて初めて力を発揮します。実施のタイミングとしては、新規事業の立ち上げ時、既存事業の伸び悩みを打開したいとき、新商品の投入前などが典型的です。いずれも「誰にどう届けるか」を根本から問い直す局面である点が共通しています。

STPに入る前に外部・内部環境を把握し、STPの後に具体的な施策へ落とし込む。この前後関係を理解しておくと、各フレームワークの役割分担が見えてきます。

3C分析(STPの前段)

市場・顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の3つの視点から事業環境を整理する枠組みです。STPのセグメンテーションやターゲティングに入る前に、そもそも市場に何が起きていて、競合が誰で、自社に何ができるのかを把握しておくと、その後の判断の精度が上がります。

SWOT分析(自社の位置づけの整理)

強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)を洗い出す手法です。ポジショニングで「自社の強みを活かせる立ち位置」を考える際、SWOTで整理した強みと機会の交点が、狙うべき方向のヒントになります。

PEST分析(マクロ環境の把握)

政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)という、自社ではコントロールできない大きな環境変化を捉えるフレームワークです。市場そのものが今後どう動くのかを見通すことで、成長性のあるセグメントを選びやすくなります。

4P(STPの後段の実行設計)

製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、販促(Promotion)という、マーケティングミックスと呼ばれる実行の設計図です。STPで「誰にどう位置づけるか」が定まった後、それを具体的な製品仕様や価格、売り方へ翻訳するのが4Pの役割になります。STPで決めた方針と4Pの施策が一貫していることが、戦略が絵に描いた餅で終わらないための条件です。

サービス資料を無料でダウンロード

選ばれる理由から受講料・導入事例まで。
課題解決力強化道場について
1冊にまとめた資料を無料でご覧いただけます。

資料請求は1分で完了します

STPを経営に活かした企業事例

理屈だけでは掴みづらいので、広く知られている企業の事例からSTPの効き方を見てみましょう。ここで紹介するのは、いずれも公開情報から読み取れる、各社の市場での立ち位置に基づく解釈です。

スターバックス

コーヒーチェーンという市場を、価格や利便性ではなく「過ごす空間の質」という軸で切り分けた例として語られることの多いブランドです。低価格・回転重視の競合がひしめく中で、あえてくつろげる時間と空間を求める層を狙い、「自宅でも職場でもない第三の場所」という立ち位置を確立しました。安さで戦わないと決めたことが、結果として独自のポジションにつながっています。

ユニクロ

アパレル市場を「流行を追う服」と「機能性の高い定番服」という軸で捉え、後者に振り切った例として知られます。年齢や性別で細かく分けるのではなく、「良質な定番を手頃な価格で求める幅広い層」という切り口を選び、ベーシックで高品質という立ち位置を打ち出しました。トレンド追随という消耗戦を避けたことが、独自の市場を生んでいます。

事例から読み取れる共通点

両社に共通するのは、大きな市場全体を取りにいくのではなく、明確な軸で狙う層を絞り、そこで独自の立ち位置を築いているという点です。そして、その立ち位置が商品・価格・店舗体験といった実行面まで一貫して貫かれています。STPは分析のための分析ではなく、こうして日々の事業活動に反映されて初めて成果につながるものだと分かります。

STPで陥りやすい落とし穴

ここまで進め方を見てきましたが、STPは「手順を知っている」だけでは成果に結びつきません。実務で数多く見かけるつまずきを、あらかじめ知っておきましょう。

まず、順番にこだわりすぎるという誤解です。S→T→Pは基本の流れですが、ポジショニングを検討する中で「このセグメントの切り方では戦えない」と気づき、セグメンテーションに立ち戻ることは珍しくありません。むしろ一度で完璧を目指すより、行き来しながら精度を上げていくほうが実態に即しています。

「順番どおり」より「行き来する」

STPを一直線の作業と捉えると、途中で違和感を覚えても後戻りできなくなります。3つのステップは相互に影響し合う関係にあり、往復しながら詰めていくのが現実的な進め方です。

次に、市場規模と成長性の確認を怠るケースです。ぴったりのターゲットを見つけたと思っても、その市場が小さすぎて事業として成り立たない、あるいは今後縮小していく市場だった、という事態は起こり得ます。狙う相手を決めたら、その市場に十分な収益機会があるかを必ず検証する必要があります。

そして最も根深いのが、分析して満足してしまうという問題です。きれいなポジショニングマップが完成した時点で達成感を得てしまい、その後の実行に落とし込まれないまま資料が眠ってしまう。フレームワークを埋める作業と、それを日々の判断や施策に反映させる作業は、まったくの別物です。

ここに、多くの企業が直面する「分かる」と「できる」の隔たりがあります。STPの理屈は理解できても、いざ自社の状況に当てはめて意思決定に使おうとすると、途端に手が止まる。この隔たりは、書籍やセミナーで知識を得るだけでは埋まりにくく、実際に自社の課題で手を動かし、第三者からのフィードバックを受けながら試行錯誤することで、ようやく縮まっていくものです。

STPを実践力に変えるなら課題解決力強化道場へ

STPは、経営の意思決定を支える強力なフレームワークです。一方で、その価値は「知っている」段階では引き出せず、自社の実務課題に当てはめて使いこなせて初めて発揮されます。フレームワークを埋めて終わりにせず、日々の判断軸として組織に根づかせるところまで到達できるかどうかが、成果の分かれ目になります。

課題解決力強化道場は、少人数制 × ハンズオン × 超実践型をコンセプトに、外資系コンサルティングファーム出身の現役コンサルタントが講師を務める研修プログラムです。自社の実務課題そのものを題材にした演習と、毎回の個別フィードバックによって、「分かる」と「できる」の隔たりを埋める設計になっています。

いま組織に必要な課題解決力とは=各種知識を思考力で組み立て、解決に向けたアクションを実行すること。知識・思考力・実行力のどれもが欠けても成果は生まれません。 ― 課題解決力強化道場 公式サイト

STPをはじめとするフレームワークを、机上の知識ではなく現場で使える力へと変えていきたい。そうお考えの経営層・管理職の方は、下記よりお気軽にご相談ください。貴社の課題に合わせたカリキュラムをご提案いたします。

貴社の課題に最適な研修をご提案します

・管理職のスキルにバラつきがある
・研修が現場で活きない
・自走する人材が育たない

心当たりがあれば、まずご相談ください。
貴社の状況に最適なカリキュラムをご提案いたします。

※ご相談・お見積もりは無料です

CONTACT US・ CONTACT US・ CONTACT US・ CONTACT US・ CONTACT US・
CONTACT US・ CONTACT US・ CONTACT US・ CONTACT US・ CONTACT US・

お問い合わせ

ご不明な点などございましたらお気軽にお問い合わせください。

お問い合わせへ
PAGE
TOP